「怪奇探偵小説名作選10・香山滋集・魔境原人」

香山滋の「人見十吉もの」の短編を全て収録した短編集。香山滋は映画「ゴジラ」の原案を抜きにしても、非常に好きな作家のひとりである。SFやミステリも書いている人なのだが、秘境小説がズバ抜けて素晴らしい。3人称で始まってるのに途中でいきなり「私は」とか言いだして1人称になってしまう、ちょっと信じられないほどいいかげんな作家だ。だがこの人の小説から立ちのぼってくる濃厚極まりないロマン、脆弱な現代小説では決して味わえない。書いてあることを読ませるのではなく、「書かれていないこと」を読ませる力がある作家である。そしてここが重要なのだが、この人の小説はほぼ例外なくエロいのだ。即物的なエロでは決してなく、秘境冒険小説の中でしか存在し得ない、この世のものならぬエロさである。それはエロというよりもエロの「気配」とでも言うべきものだ。オレが学問としての文学を全然信用しないのは、香山滋のような作家が評価されることが絶対にないからである。