ヴェルヌの映像化

ジュール・ヴェルヌ」から続き。
ヴェルヌの小説を映像化した作品は少なくない。勿論オレも全部観てるわけではなく、むしろ観てないものの方が多く、それでもまあ観られるものはなるべく観てきました。
一番多かったのが、前述のカレル・ゼマン悪魔の発明」式の懐メロ路線である。申し訳ないがディズニーとフライシャー息子の「海底二万海哩」もここに入る。ディズニー映画というブランドも足枷になったのだろう。「八十日間世界一周」はデヴィッド・ニーヴンという最高の演者を得ていながら、トッドAO方式(シネラマみたいなもん)の大画面演出に気をとられたかオールスターかくし芸大会になってしまった。「空飛ぶ戦斗艦」や「地底探検」は頑張ったが、悲しいかなクォリティーが低すぎた。
次に多いのがヴェルヌの小説世界の舞台だけを借りて、好き放題脚色した作品群。こちらにも懐メロ的にヴェルヌのモチーフを利用している作品は多いが、てめえの裁量で脚色しているだけにヴェルヌと関係ないところで面白かったりつまらなかったりする。作品単体としては、むしろこちらのほうに佳作が多いのではないか。ブロカの「カトマンズの男」なんて、ヴェルヌと無関係にムチャクチャやってて実に面白かった。ガイナックステレビアニメーションふしぎの海のナディア」は、ヴェルヌ原案かと思ったらヤマトごっこだった(またかよ! どんだけヤマト好きなんだよ!)。
オレがかなり高い水準で満足したヴェルヌ原作映画が1本ある。チェコの「カルパテ城の謎」である。
コメディの皮をかぶってはいるが、オレが観てきた中ではこれが最もジュール・ヴェルヌとガチンコで向きあっていた映画だ。平たく言えば、クソ真面目に、本気で作られていた。『悪魔の発明』と同じチェコスロバキアの映画だが、ゼマンの冷笑的な態度とはまったく対照的だと思った。あのー、ここ数日なんだかゼマンを大悪党のように書いてますけど、多分御本人はいい人だと思いますよ、知らないけど。彼はヴェルヌの小説から懐メロしか読みとれなかっただけで、別に悪意はないんでしょう(読解力もないけどな!)。
さてしかし、ヴェルヌ読者として満足した映画が中篇「カルパチアの城」を映画化した「カルパテ城の謎」1本だけというのはなんとも寂しい状況である。オレは高校生の頃から、ヴェルヌの大長編を完璧に映像化した夢の映画を観たいと熱望するようになった。その思いに、いまだ悶々としている。誰か死ぬ気で作ってくれないものだろうか。豪腕と純情を併せ持つ、例えば黒澤明のような人でないとこれは絶対に不可能だ。そんな人がそうそういるわけもなく、いたとしてもヴェルヌを選ぶ確率はさらに低い。
多くの人と同じく、オレもピーター・ジャクソンの「指輪物語」の本気っぷりに感動した1人だ。しかしその偉業に立ち会える幸せに酔いしれながら、どこかで「これがトールキンではなくヴェルヌだったら・・・」と思わずにはいられなかった。この悶々は、死ぬまで続くのかもしれない。

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