「ムトゥ」

ムトゥ 踊るマハラジャ [DVD]

ムトゥ 踊るマハラジャ [DVD]

久しぶりにムトゥが観たくなり、深夜の仕事場で観る。数年前にはじめてこの映画を観たときは、あまりのキャラクターの濃さ、メチャクチャなアクション、愉快な楽曲に心を奪われて興奮しっぱなしであった。今観てみると、とにかく完成度の高さに驚かされる。タミル語映画においては、たぶん脚本と歌詞は区別できぬ一体のものなのだろう。オープニング、馬車を駆りつつムトゥが歌う主題歌がまさしく「主題」歌であり、この映画のテーマほとんどすべてがあの歌詞に凝縮されていると言っていい。そう、この映画は脚本が実によく考えられている。テーマつまり「伝えたいこと」を過不足なくストレートに伝えつつ、寄り道的な娯楽要素は限度を超えて詰めこまれており観客を圧倒する。これはタミル語映画の長い歴史の末に生まれた、必殺の方程式なのだろうな。
「主人はこの世に唯一人」、「クルヴァーリ村」、「ティラーナ」、どれも本当に素晴らしい。歌と映像が喚起する瞬間瞬間の快楽もこれ以上ないほど高いレベルだが、楽曲を映像で見せるその設計が実に優れているのだ。世界中のありとあらゆるPVも、どんな他のタミル語映画も太刀打ちできぬほど「ムトゥ」の歌のシーンは完璧である。「この小節でなぜこのカットを見せなければならないのか」、すべてのコンテに厳密な設計がなされている。タミル語映画においては歌のシーンは、撮影しながら振りつけ監督がアドリブで演出すると聞いたことがあるが、オレはこの映画に限っては一切信じない。例えばモーツァルトの曲は音符が1つ違ってもダメで、「これしかない」という繋ぎになってるでしょう。「ムトゥ」の演出は、あれに近いものがある。テンションと勢いで押しきってる映画だと思ったら大間違いだ。