新日vsUWF 5vs5イリミネーションマッチ(1986/3/26、東京体育館)

よい子は真似してはいけない方法で、久々に観る。いやいや懐かしい。
この年の2月にはUWF代表として藤原が猪木にキン蹴りからの裸絞めで敗れており、怒った前田が猪木へハイキック〜「猪木なら何をやってもいいのか!」事件があり、それを受けてのこのイリミネーションマッチ、とんでもない盛り上がりを見せておった。負けたやつが消えていくイリミネーションマッチだが、この試合のツボは「場外に落ちたら負け」というルールにある。
UWF前田日明藤原喜明木戸修高田伸彦山崎一夫。新日はアントニオ猪木藤波辰巳木村健吾星野勘太郎上田馬之助
メンツを見ると、馬之助は明らかに異分子だ。当時バリバリの新日ファンだったオレは、一時代前のヒールである馬之助をメンツに入れざるをえない新日の台所事情の苦しさを思い、不安を感じていたものだ。古館の「落日の闘魂神話」という言葉にも、やるせなさを感じていた。その頃のUWF勢は強く新しく、攻撃的に見えた。特に前田日明という男の蹴りには対戦相手への敬意がまったく感じられず、非常に危ないと思っていた。
さて久々に観たこの試合はもう面白い面白い面白い面白い、あまりの面白さに驚いた。オレはあの頃これほどレベルの高いものを観ていたのかと驚愕したのだ。
この試合のビッグサプライズは、どう見ても一番役立たずの上田馬之助が敵の大将であり黒髪のロベスピエールであるところの危険人物・前田日明を引っ張って場外に落ち、心中する場面である。そしてリングの上には猪木と高田と木戸が残るのだ。前田と馬之助が落ちる前までは、UWFの圧倒的優勢に見えたのである。それが2人が落ちた後は、高田と木戸ぐらい猪木1人で大丈夫だという雰囲気に会場の観客が豹変する。そしてその通りに、猪木は2人抜きして勝つのだ。
当時のUWFと新日の試合は今の感覚で言えばプロレス内プロレスなのだが、ケツ決めや星のやりとりの詳細は誰も語らないから今もって不明だ。しかしこの試合を観る限り、前田は馬之助の仕掛けを知らされておらずガチで場外に落とされているのではないか、という気さえする。それほど前田の悔しがる姿は真に迫っていた。また、テレビ中継における扱いやファンの支持を巡る陣取り合戦において、当時の新日とUWFの争いが真剣でなかったとは思えないのだ。いいとこ見せたいという欲求はレスラー全員が持っているし、勝てば現実に人気が上がるのである。
それにしても面白かった。馬之助のビッグサプライズは試合の終盤に起こるのだが、そこに至る試合内容も抜群に面白い。各レスラーが強烈な個性を次々に披露していくさまを観ているだけでたまらない。藤波や勘太郎は前田の蹴りをガンガン受けてたのに、キムケンは前田にちょっと蹴られるとさも効いたという風にうつぶせに倒れてもう動かず、それ以上蹴るなよと無言でアピールしているあたりなんかもうたまらんと思ったな。星野勘太郎と藤原のケンカファイト、藤波のテレビ映えする華麗な技をきわめて地味な技で切り返す藤原の味、木戸とキムケンのフォール合戦、藤波とジャーマンで張り合う高田の若さ。エネルギー、情熱、力感、スピード、スリル、ああこの風この肌触り、これが新日よ!
それがなんだなんだ、今の新日は引き分けブックも完遂できない脱水牛、晩年の馬場より動かない黒のカリスマがデカい顔をしているのだ。そんな会社! 修正してやる!