大晦日「PRIDE男祭り2006」雑感

第一試合、田村潔司vsミノワマン
小太刀も持たず、いつになく「ワーク」(お仕事)モードで入場した田村。突進するミノワマンに左ミドルが通じないとみるやヒザに切り替えカウンター。これで勝負あったが、凄いのはここから。
うずくまるミノワマンに「殺し」の蹴りをブチ込む田村。顔面への蹴り、パンチ、蹴りを見てようやくストップしたレフェリーに、文句を言いつつ突き飛ばす。この瞬間、怒りと苛立ちを露わにした田村の不機嫌な顔! 「レフェリー、早く止めろよ!」と苛立ちながらも、裏腹に殺しの蹴りを容赦なく放つ田村の矛盾の文学性、ほんの一瞬だけ見せた「生(なま)」の感情。田村は「青春の殺人者」だ。
この後、田村はシレッとお仕事モードに復帰。ミノワマンと健闘を称えあい、マイクで適当に喋って帰っていった。
ほとんど試合をしないうえ、つきあいの長いkamiproのインタビューでも常にのらりくらりはぐらかして小銭を稼ぐ田村。田村が今回のような「生」の色気を見せるのはだいたい4年に1回の日暮巡査ペースで、本来はただの俗なおっさんなのだ。しかしたまに強烈に心に「引っかかる」このような試合をすることで、田村は自分の価値を上げ、使われて消耗することを拒否し続けてきた。そして消耗を避けてきた結果とはいえ、田村の「殺し」が錆びついていないのも立派である。彼が一瞬垣間見せた「生(なま)」の心は、すぐに隠されてしまってもう我々の手は届かない。明日からはすっかり元通り、のらりくらりと貯金生活のおっさんである。この恐るべき魔性、田村の本質はまぎれもなく「悪女」! オレでさえ一瞬心を奪われたのだから、長年の田村オタであるオレの友人などはもう悪い女に引っかかったとしか言いようがない。田村で人生アウト。死ねば助かるのに…!

あとは雑感。
青木の快勝(フットチョーク!)を喜ぶ師匠の中井祐樹がすっかりいい顔のオヤジになっていて、深い感慨と敬意を覚えた。
郷野の入場を好意的に呑めるのは彼が自分のショボさに自覚的で、三流のまま一流の舞台を突っ走ってやるという矜持が伝わるからだと思った。これは90年代のインディープロレスに通ずる精神性で、つまり郷野からはかぐわしき「文化祭前夜の匂い」「AMラジオの深夜放送の匂い」がするのだ。同じく入場に凝る格闘家に須藤元気がいるが、オレは元気の入場はまったく呑めない。ただバジェットを上げていく大作主義に疑問を感じない元気の感性の薄っぺらさは深刻だと思う。
五味のヒールターン。確信犯的に佐藤Dとつるんだ煽りVが出色の出来。「なんもできねえと思うよ」「仲良しこよしやってんじゃねえ」「そうやってお前らが夢見てる間に」「オレには判るぜ。あいつは夜も眠れねえ筈だ」 五味語録のクォリティーの高さには感心する。
ジェームズ・トンプソン、吉田秀彦を撲殺。いちばん興奮した試合。頭部を殴られ続けた吉田に、大事無ければいいと思う。オレが今後も吉田を憎み続けたいからだ。
メインとセミは文句なし。