「ミスト」

新宿歌舞伎町にてスティーブン・キング原作、フランク・ダラボン監督の「ミスト」。これは実に面白かった!
以下、ネタバレ注意で。さすがにラストには言及してません。

Z級SFの真実味 (★4) 
劇中、主な舞台となるスーパーマーケットは露骨に合衆国のミニチュアとして描かれている。あの集団をもってしてアメリカ社会を描く意図があるのは明白で、純粋にビックリドッキリ映画がやりたけりゃ群像劇にせずに田舎の一軒家でいいわけですね。

つまりこの映画は「今のアメリカってこうだよなー」という総括を行なっているわけで、これをZ級SF映画の中で展開するもんだからオレなんかもうすっかりゴキゲンになるわけです。なにも社会派気取って難しいこと言わんでも、古臭いパルプSFの道具立てだけで時代と社会を撃つことは可能だ。映画史っぽいことを言えば、一般に現実逃避的なジャンルとされるSFこそが時代の気分を、人々の感じる獏とした不安や恐怖や欲望を敏感に描き続けてきたのだ。『ミスト』はその系譜に連なる、立派な映画の一本である。

理解できない異常な事態に直面した時、人々が見せる様々な反応が描かれる。まず「子供が心配だ」と外へ出ていく御婦人。これは生物として最も自然な反応だろう。とりあえず解決できそうな手近な問題にあたる人々(こういう心理をちゃんと拾いあげてるあたりで、オレはこの映画に全幅の信頼を置いた)。異常な事態の異常さから目を背け、社会の中で通用してきた「実際的な方法」にすがる人々。ヤバさのあまり首を吊る人々。そして、宗教にのめりこむ人々。

この「宗教」が実はいちばんヤバいですよ、と「ミスト」は告発する。特にこれといってどの宗教も信じていないオレからすると、人類に神さまの審判が下るなんてことをガチンコで信じている人々は、どうか怒らないでくださいよ、ズバリ言って頭がどうかしているとしか思えない。しかし実際にはそういう原理主義的な考えの人々はたくさんいて、そりゃもうオレの想像以上にたくさんいて、オレなんかよりずっと立派に社会生活を営んでいて、きっと普通の状況下で個々に話せばたぶん皆さん話の通じるいい人たちで、不信心なオレだって仲良くしてもらえたりもするのだろう。

しかし、集団でパニックに陥るともういけない。アメリカ人は、斯様な社会に生きている。危ない危ない。アー日本人でよかったと言いたいところだが、日本だって相当危ないだろ常識的に考えて… 集団ゆえの危うさなんて、宗教に限った話ではないからだ。ともあれ、そのようなことを考えてちょっと怖くなってみるような、実にいい映画でした。以下余談。

これは自分に限った話かもしれないが、いわゆる社会派とされるマジメな映画やドキュメンタリーの主張よりも、Z級SF映画が示すこのような思索のほうがオレはスンナリと受け入れやすい。これには理由があって、「社会派」は自由にウソがつけるけど「SF」はウソがつけないからだ。少なくとも、オレがそう思っているからだ。逆説的に聞こえるかもしれないが、だいたいにおいてSFは巨大なウソを必ずつくが、それ以外はホントのことばかりで構成されているものだ。そうでないと成立しないジャンルなのだ。一方、社会派映画なんか巧妙にアレしてコレしてやりたい放題なわけでしょう。実話をもとにしたという映画に限ってウソだらけだったりするわけでしょう。オリバー・ストーンなんかビタイチ信用できないわけでしょう。だいたい映画なんてウソばっかりじゃねえか! だったら「ウソですよ」と最初から明示している映画のほうが、いくらか誠実で正直なんではないか、という気がしてならないのです。この感覚ヘンかなあ。

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