土人の国にて

「都青少年健全育成条例」の改正案が可決されたとのこと。ここで何度も書いてきたように、オレはあらゆるタブーに反対で、今更ことの是非を論じる気はない。当然この報には憤りを感じているのだが、実のところはそれ以前に、ただもう残念な心持ちで一杯である。

青少年健全育成条例」という名称の恥知らずっぷりは凄いと思う。その実態とは関係なく、なんとなく反対しにくい名前にしたらエエんやという意味で、かの「治安維持法」と非常に似通ったネーミングセンスだと思う。そういえば消費税が導入されて日本中がブーブー反対していた頃、筒井康隆が「自民党は消費税を「お年寄り福祉税」という名前にすればいい。野党もお年寄り福祉税反対!とは叫びにくかろう。ナニ実際は福祉とか関係なくても構いやしない」というような弩級の極悪発言をしてて、なんて悪い人だろうとびっくりしたことを思い出した。

別に天下国家を憂いておるわけではなく、オレの内部の話である。オレはこの国のことがおおむね好きで、そりゃあ時々こんな国滅んじまえと思うこともあるものの、まあ総じて大体いい感じの愛憎のバランスをとって生きてきたのである。しかし最近そのバランスが憎の側に傾くことが無闇と多いのだ。今回の条例、いや条例そのもの以上にそれをめぐる規制賛成派の方々の素晴らしすぎる発言の数々には、目の前が暗くなるような気分をたびたび味わってきた。申し訳ないが賛成派の発言の大半は、正直言ってどんなエログロ漫画を読むよりも気持ち悪く感じたし、自分の倫理に照らして極めて有害なものだと感じた。

前回のエントリに書いたが、わたくし先日クマに遭いましてね。もう、おっかねえったらないよ。あいつ、腹減ったとか腹減ったとかしか考えてないわけですよ。その存在の強度、リアリティーって凄まじいぜ。東京に戻ってみると、この社会、都会の風景、通貨、人生、ここにあるもの全部ウソだと思ったよ。こんな国や社会は人間の脳が生んだルールの上にしか存在しないわけで、たとえば国境線なんか地図と人間の脳内にしか存在しないわけで、それを越えたら不法入国だの亡命だのと騒がしいことになるんだけど、まあなんというバッカバカしい、くっだらないことだろうと思うね。そんなもんクマには関係ないからね、あいつ腹減ってウロウロしてるだけなんだから。お釈迦さまやキリストさんよりはるかに昔から、クマは腹減らしてウロウロしてきたのだ。そのリアリティーを前にしては、現代社会のあらゆるルールなんてハナクソみたいなもんだと、わりと本気で思うわけです。

それでもオレは社会の中で働いてメシ食ってるわけで、だから上記のような違和感を感じつつもルールに則って仕方なくイヤイヤ働いている。そんな気分の時に件の条例案と規制賛成派の方々のアメージングなご意見の数々をディスカバリーすればこれはもうあまりにもバカすぎて、この国が土人の闊歩する未開の後進国としか思えなくなってくるのだ。この国はすっかりダメになってしまいました! などとたけしのモノマネが自然に口をついて出てくる程度の御無礼は許してほしい。今日はちょっと殺しあいをしてもらいます。ダンカンこのヤロー!

ツイ・ハークの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地大乱」という映画があってね、すげえいい映画なんだけど、こんな場面がある。孫文の右腕の陸さんという人と黄飛鴻は、インチキ宗教の白蓮教団と対峙して信者のキチガイっぷりを目の当たりにする。この時、無力感に襲われた陸さんが絶望してこんなことを言う。

孫文がどんなに頑張っても、こんなバカどもしかいないんじゃ、中国は滅びてしまう。もうあかん」

今、そんな気分だ。

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