12.31 Dynamite!! 〜勇気のチカラ2010〜

あけましておめでとうございます。例年通り、大晦日は格闘技興行を友人とテレビ観戦。

青木真也長島☆自演乙☆雄一郎の一戦が、なんとも言えぬモヤモヤした気分を残した。これ現在の日本の格闘技界の歪み、そのしわ寄せが全部出た象徴的な試合だと思う。

まずそもそも、大会のカードが過去最低だった。金もないのだろうが、雑なマッチメイクが多かったように思う。そして、誰もが口にするTBSの番組作りのひどさ。すべてが雑で、クオリティが低い。青木と自演乙の試合は極めて特殊なルールであるにもかかわらず、一切のルール説明がなかった。視聴者を教育しようという気が、全然ないのである。教育とまではいかずとも、今から何が行われるかを理解して欲しい、その上で楽しんで欲しいというのは作り手の根源的な欲求だと思うのだが、もはやテレビ番組としてのDynamite!!はそういう原理で作られていない。煽りVもいいかげんで、効率のいい手抜きのお手本にしかなってない。我慢に我慢を重ねてきたが、もうハッキリ言う。TBSのスタッフは能無しである。だいたい、佐藤大輔はどうしたんだよ。あれだけの才能に、それを発揮する場を与えないなんてひどすぎる。言っておくと佐藤大輔の才能って、青木の比じゃないからね。世界で唯一無二のものですよ!

TBS謹製の「お茶の間格闘技」には功罪あって、ボブ・サップや曙、バタービーンチェ・ホンマンなどのお茶の間向けキャラクターが揃っていれば、能無しスタッフでも作れるそれなりにゆるい番組として成立するのである。お茶の間向けとは別にモンスター路線ばかりではなく、優秀な競技者でもある魔裟斗山本KID徳郁所英男須藤元気らだってFEGが「お茶の間に通用する選手」として育ててきたタレントだった筈だ。お茶の間向けとは「初見で親しめるキャラクター」のことである。長島☆自演乙☆雄一郎は、その「お茶の間向け」タレントの系譜に連なる成長株である。そして青木真也は、その対極にある「陰影の濃い」タレントだ。

そもそもオレは青木が修斗からPRIDE武士道にやってきた2006年から彼の試合を見ているが、ハッキリ言って好きとは言いにくい。極端に寝技に偏った戦法や極めの技術は素晴らしいと思うし、ため息の出るような美しい極めを青木は何度も見せてくれた。一方でコイツひでえと思わされることも多く、「柔術黒帯人間白帯」と言われてるのもなるほどと理解できるのだ。

この大晦日、青木はギルバート・メレンデスに雪辱戦を挑む筈だった。それが消滅し、まあ大方FEGに金がなかったからなんだろうが、一転して自演乙との混合ルールでの試合が組まれた。正直言って、エキシビジョンマッチでいいようなメチャクチャな取組である。青木からしてみると、世界レベルのグラップラーである自分と日本レベルのストライカーである自演乙が同列に並べられること自体にまずイラッとした筈である。オレでさえ多少の違和感を感じるほどだ。しかし、ここでモノを言うのは大晦日・世間・テレビといった社会的力学である。お茶の間における知名度は2人ともほぼ同じで、なんならハデなぶん自演乙の方がやや有名なくらいだ。世間的には、似合いのマッチメイクということになる。

個人的には蹴ってもよかったのではとは思ったが、青木はこういったどうしようもない力学や日本の格闘技界のジリ貧な状況を理解したうえで試合を呑んだ。自演乙も、おそらくは理解している。魔裟斗はひょっとしたら理解してないが、K-1側の解説陣として正直なコメントを発し、これはこれで仕事だからまあいいや。試合は行われ、青木KO負けという結果が出た。問題は、いつだってそうなんだけど問題は、我々見る者の側にある。我々がこれをどう見たかが問題なんだ。

いわゆる世間では、まあホントの世間ってのは有能なスタッフが作るガキの使いの方を観てた層かもしれませんが、青木プギャー的反応が大勢を占めた。これねえ、なんちゅうかまあ判らんでもないんだけど、やっぱりイラッとするわけですね。青木を擁護したいわけではなくて、むしろ青木なんか誰にボロクソ言われたって構わないんだけど、「青木は自分に有利なルールで負けた」とかいうバカな意見を見るに至っては、ボロクソを言う側の倫理として、やはり醜い。ただ単に誰かを叩いて気持ちよくなりたいだけなのが、透けて見えるからだ。

1Rの青木の時間稼ぎは、当たり前じゃないだろうか。この試合は2R判定なしのルールで、つまりいくら注意や警告を受けても勝敗に影響がないわけで、それならあれくらいはカワイイもんだ。オレが青木の立場だったら、ポーゴ大王ばりにビッグファイアを吹いて、ケンドー・ナガサキばりに椅子でブン殴ってるところだ(反則です)。

立ち技につきあわないことが正々堂々としていないように見えるのは、この変テコな試合の変テコさを理解していないからだ。これがK-1ならば時間稼ぎは「勝つ気がないのか」となるが、この場合2R目は総合ルールなのだから、青木は勝つ気がないのではなくむしろ勝つための兵法を実行しているわけだ。こんなのは当然であって、青木なんか過去には総合で柔術世界王者相手に寝技せずムエタイ勝負を仕掛けるという、ちょっとどうかと思うようなことをやっている。自演乙だってもし2R冒頭のヒザを外していたら、以後いかに寝技から逃げて時間を稼ぐかがテーマになるのである。

試合を理解してない発言が幅を利かせる中でオレの気を滅入らせるのは、やはりTBSが視聴者に「理解させる気が一切ない」番組作りをしているという事実だ。ただバカがバカな意見を言ってるのではなく、メディアが率先してバカな視聴者を作っており、それを正して選手を守る力がもう主催団体にさえないというこの袋小路にガッカリするのである。番組スポンサーはパチ屋や携帯ゲーム屋ばかり、かつて後楽園ホールに集う貴族的変態オタクが支えてきた格闘技は、ハッキリとDQNを対象にしたDQNだましのコンテンツに成り下がったのである。10年に及ぶ大晦日の格闘技番組の興亡も、もはやこれまで。2、3年前から思っていたが、もう潮時だろうな。