「タイガーマスク」と「仮面ライダー」

タイガーマスク DVD‐COLLECTION VOL.1

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仮面ライダー1号・2号 BOX [DVD]

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仮面ライダー」の企画が「タイガーマスク」を参考にして作られていたことを、恥ずかしながらはじめて知った。なるほど悪の組織出身から正義に転身し、自分を生んだ悪の組織の刺客(かつての自分の姿)と闘うという基本軸はそのまんまだ。

Wikipedia - タイガーマスク

Wikipedia - 仮面ライダー

わたくしも昭和オタクの端くれ、「仮面ライダー」のことは基礎教養として知っているし、第一作から「アマゾン」くらいまではいいかげんに観ていたものだ。1972年生まれの自分は当然本放送には間に合わず、観たのは再放送だ。昔の地方都市は再放送が充実しており、ライダーや戦隊などの東映作品、「ウルトラマン」「怪奇大作戦」などの円谷作品、「タイガーマスク」「あしたのジョー」などの梶原アニメ、「マジンガーZ」に始まるロボットアニメ、「トムとジェリー」「ミステリーゾーン」「サンダーバード」などの海外作品も再放送で観た。

オレにとって「仮面ライダー」(以後第一作を指す)は、やってりゃ観るけど観なくても別にいい程度の作品だった。要するに全然ハマらなかったのだ。それは同じ東映の戦隊ものも同様で、まーそれなりにカッコイイし面白いんだけど、のめりこむような感覚は一切なかった。成人してから「なるほどライダーや戦隊もなかなか面白いな」と感じたことはあるのだが、それは後の話。オレは「仮面ライダー」がまさに視聴対象としている子供の頃に、ライダーに一切熱狂しないガキだったのだ。

では何に熱狂していたかというと、それはプロレスから怪獣映画からカンフー映画までいろいろあるけれど、上記の如く「仮面ライダー」企画のお手本となった「タイガーマスク」には完全に熱狂していた。「タイガーマスク」に関してはこのブログでもたびたび書いてきたし、そもそもブログタイトルからして「タイガーマスク」第29話のサブタイトルからいただいているのだ。過去に書いたタイガー関連のリンクはid:Dersu:20060114 にまとめてある。オレの人生に決定的影響を与えた作品である。

タイガーマスク」をお手本にして作られたという「仮面ライダー」の商業的成功には、脱帽するほかはない。なにしろ現在でもシリーズの新作がテレビで放送され、オモチャはバカ売れなのである。石森章太郎が参加後に作ったであろうオートバイに乗るヒーロー像、バッタ型マスクの意匠、変身ベルトなどのイメージも秀逸だと思う。本題に入る前に一応断っておくがオレに「仮面ライダー」をけなす意図はなく、ただオレが「タイガーマスク」を好きすぎるんだぜと書きたいだけなので、以降の文章を読んでも「仮面ライダー」ファンの方は怒らないでください。いっそ読まないでください。

言うちゃ悪いけど作品としての「仮面ライダー」と「タイガーマスク」では、オレにとっては比較するのもアホらしいほどの、雲泥の差がある。おっさんになった今はっきり判るのは、ガキの頃のオレは「仮面ライダー」の子供騙しっぷりが好きになれなかったのだ。そして対照的に、「タイガーマスク」の真剣味、切実さの虜となっていたのだ。

仮面ライダー」はショッカーとライダーと子供たちしかいない世界、ほとんどセカイ系である。ショッカーは世界征服を企む悪の秘密結社だが、その実態はよく判らない。それに対抗するライダーの正義はお題目に過ぎず、はっきり言って軽い。オレには全然、物足りなかった。

その軽さ、一種いいかげんな明るさこそが、ライダーを現代も続く人気ブランドにしたのだろうとも思う。オレはライダーの魅力を否定するものではないが、ガキの頃にライダーにハマらなかったのは、すでに「タイガーマスク」や「ウルトラマン」という「本物」と出会ってしまったからだと断言できる。

タイガーマスク」に描かれる世界は「仮面ライダー」のセカイ系なそれと違って、ほとんど現実と違わないようにオレには思えた。プロレス界を牛耳ろうとする組織・虎の穴はミステリアスに描かれているものの、その実態は出身レスラーたちからギャラの半分を徴収し続けることで運営されている。現実的だ。タイガーと闘うレスラーも、虎の穴の刺客だけとは限らない。怪人から架空の強豪レスラー、実在の名選手たちまで様々で、少しだけしか出番のないキャラクターにも陰影の濃い、印象深い造形がなされている。実に豊かな作品世界なのである。

さらに例を挙げれば id:Dersu:20060106 に書いたような、タイガーマスクが社会問題と対峙するエピソードが多数存在することも、この作品を特別なものにしている。常識的に考えれば何もひとりのふく面プロレスラーが公害問題に取り組まなくても良さそうなものだが、「タイガーマスク」において伊達直人は断固「世の中」と向かい合い、クソマジメに闘うのである。作り手の問題意識、志の真剣さが作品に如実に表れているのだ。作り手には、この子供向けプロレスアニメで世界を変えてやると本気で思っている節がある。タイガーは虎の穴との死闘に明け暮れながらも、貧困、教育、差別、公害などの社会問題と真摯に対峙する。そしてたとえ社会の中で無力な個人であっても、子供や弱者に優しいタイガーマスクをカッコイイと思い憧れた記憶はオレの中に刻まれており消えることがない。

基本的に、子供向け作品は子供のゴキゲンとってりゃいい筈なのだ。しかし時間に劣化されない記憶として大人になっても忘れられず残るのは、子供向け作品がその枠組みからはみ出してまで、何かを伝えようとした瞬間なのだ。

あのー、最近オレ、富野由悠季の「無敵超人ザンボット3」をDVDで観てるんですけどね。これもえらくはみ出した凄い作品でね。のちに「機動戦士ガンダム」で子供相手に戦争見せちゃう富野監督ならではの、とんでもない作品ですね。これらの作品に感じた問答無用の情熱とエネルギーを、結局オレは「仮面ライダー」に感じることがなかった。他の誰かはそれを感じたのかもしれないし、たとえそんな「本物」でなかったとしても、「仮面ライダー」はすぐれたエンターテインメント作品である。そのことに疑いはない。ただねえ… そんな「仮面ライダー」にハマらなかった昔の自分を、ガキながら結構大した眼力だと、ちょっとわたくし褒めてやりたいと、そのように思うんだよねえ… なんか自慢みたいでアレなんですけどねえ…