さいきん読んだ本

「「つくりごと」の世界に生きて」 井上譲二

「つくりごと」の世界に生きて-プロレス記者という人生

「つくりごと」の世界に生きて-プロレス記者という人生

1989年、11.29東京ドーム。当時飛ぶ鳥を落として焼いて食う勢いの新生UWFのビッグマッチ「U-COSMOS」。セミで高田に敗れたデュアン・カズラスキーが流した大粒の涙を見た筆者は、不意に経験したことのない罪悪感に襲われたという。

AWAの顔役バーン・ガニアにカズラスキーを紹介され、ブッキングしたのは筆者自身。ギャラはAWAに5000、カズラスキー本人に5000で計1万ドル(安い!)。「こっちはシュートでもええで」と豪語するガニア親分と、ワークの条件で契約したという。カズラスキーは前年のソウル五輪グレコローマンアメリカ代表選手だ。ま、ソウル五輪グレコヘビー級はご存知アレクサンダー・カレリンが当たり前のように優勝したんだけど、カズラスキーとて全米王者。世が世ならUFCで活躍しちゃうような、本物のアスリートである。極東の島国のベースボールスタジアムで、横浜出身の野球少年・ノブ高田にアマチュアスポーツマンのプライドを小遣い銭程度の金で売り渡し、一進一退の好勝負を演じてきっちり負けてみせたところ、思わず涙がこぼれたらしい。当時ボクちゃんは「UWFサイキョッ!」と信じて疑わない10代の少年だっただけに、おっさんになった今このような裏話を読むともうなんだか味わい深すぎてしみじみするばかりだ。納得ずくのワークといえばそれまでだが… カズラスキーごめんな… 同じく高田の引き立て役をやった弟のデニス・カズラスキーもごめんな…

「日本レスリングの物語」 柳澤健

日本レスリングの物語

日本レスリングの物語

1921年靖国神社アド・サンテルと闘った柔道家から、日本レスリングの物語は始まった(id:Dersu:20060627)。大正から平成までのおよそ90年にわたる長大な物語ゆえ、全編通して主人公と呼べる人物はおらず、その時代時代で次々と英雄が出現する群像劇だ。筆者はまたスタイルを変えている。ワルツにはワルツで、ジルバにはジルバで。
とりわけ日本のレスリングが八田一朗というメチャクチャ面白い人物によって育てられたことの意味は非常に大きく、プロをも取り込むレスリング界の視野の広さ、公平さ、冒険心にはわたくし以前から好感を持っておりました(id:Dersu:20070204)。なにしろ全柔連はえらい違いなのである。
しかしこの本を読むと、そんなレスリングの世界においても主導権を奪い合う興味深き暗闘が少なからずあったことが判る。これはねー、ロンドン五輪の前に読めてよかったですよ。だって北京五輪吉田沙保里が肩車してたコーチのおっさんとか、強化委員会のおっさんたちとか、今までおっさんと思ってたけど、あれタダのおっさんじゃないんだ。この本読んだらもう、キラ星の如きリビングレジェンド、スーパースターたちなんだよ。そして、ロンドンでは新たなスーパースターが登場するのかもしれない。

米満達弘という男 - 別冊・プロレス昭和異人伝

嘉納治五郎の柔道は、学校体育という場を掌握することで飛躍した。しかしこの本においては、日本レスリングが学校体育という場を捨てて自由になることで「スポーツ」として確立してゆく過程で筆が置かれる。この刺激的な物語は、今も進行中なのである。とりあえず、レスリングの「今」をロンドン五輪で目撃しよう。そうしよう。あ、それからカズラスキー本当にごめんな…

CUT 2012年8月号

Cut (カット) 2012年 08月号 [雑誌]

Cut (カット) 2012年 08月号 [雑誌]

庵野秀明樋口真嗣鈴木敏夫のインタビュー掲載号。
三者三様で面白い。いまいち能力不足とも思えるインタビュアーの論調に「そうじゃない」と否定し続けるばかりの庵野秀明。特撮と宮崎駿の魅力をわかりやすく語る、いちばんいい人樋口真嗣。何の話でもレンガ屋サロン世界に落としこんでゆく悪党・鈴木敏夫
庵野インタビューだけ読むとオイこれでカネとるのかという内容なんだけど、三者並べることでどうにかなっている。オレがシビれるのは、やはり鈴木敏夫。この人の面白さについてもいつか書こうと思ってますが、いやあ悪いね。気持ちよさそうだね。