オレたちはバンクシーの養分 「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」

DVDで「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」。ようできてるわ。以下ネタバレあり。

イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ [DVD]

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オレたちはバンクシーの養分 (★2)
多層的に楽しめるすぐれた映画で、観てる間じゅうあれこれ考えさせられるので疲れた。パクリとコピーによって成功する「ニセモノ」ド素人芸術家、ミスター・ブレインウォッシュの成功を通じてアート業界の滑稽さを撃ちますよというのが最も表層的な一層目。つくづくこの映画の作り手バンクシーは意地が悪いなあと思ったのは、序盤で古着屋のおじさんティエリー氏が「古着屋における錬金術」をサラリと開示するくだりだ。「元値の100倍で売れたのもあるよ」 これってアート業界の詐術そのものだよな。

二層目はこれに対するまっとうな疑念。MBWは「本物」のアーティストに比べて何が劣ってるのか。アートにおける本物/ニセモノの対立概念なんて、ウォーホルで終わってんじゃないのか? バンクシーが本物でMBWがニセなんて誰が決めた? それは芸術じゃなくてただの権威なんじゃないの? 高い評価を受けバカげた値のつくバンクシー作品もMBW作品同様に無価値かもしれぬことを白日のもとに晒してみせる、メタドキュメンタリーとしての面白さ。

三層目はこの映画自体が監督バンクシーの壮大な釣り、イタズラなんちゃうの、という疑念。MBW氏はバンクシーが作り上げたトリックスターで、商業的な成功も含めてバンクシーの「作品」であるというヤラセ構造。だとすれば現実の現象以上にこの映画なんて自作自演の狂言騒ぎもいいところで、まったく手の込んだ悪ふざけである。

「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」は上記の如き思考の堂々巡りを意図的に誘発させる、極めて性格の悪い映画だ。しかしそれ以前の段階で嫌な嫌あな気分になる映画でもある。この映画にはストリートアーティスト、偽アーティスト、連中を取り締まる官憲、ディズニーランドの憲兵など様々な人々が登場するが、どの連中よりも抜きん出てアホに見えるのが金払って美術館や個展にやってくる「アートの客」たちなんだよな。あの白痴どもこそ、この映画を観ている我々の姿なのだ。要するにバンクシーはこの映画を観てる我々「いいお客さん」を一番バカにしてるわけで、この映画がアカデミー賞はじめ数多のドキュメンタリー賞を総ナメにしたことで彼のイタズラは上々の完成を達したわけだ。ぼくたち要するに大なり小なりこのような錬金術で儲けてまんねんテヘヘ、という自己紹介を金を払って観てしまったオレ。斯様な悪ふざけにつきあわされバンクシーの養分となってしまった私としましては、バンクシーよかったな、オレの金返せよツラ見せろよそして死ねよと思わざるをえないのである。