「戦場の小さな天使たち」と再会

「戦場の小さな天使たち」なんてバカみたいな邦題ですけどね、高校生の頃に劇場で観て、なかなかいい映画だったと記憶している。第二次大戦中の暮らしを子供の視点で描いた英国映画だ。

この映画、昔VHSが出たっきりでDVDにはなっていない。

戦場の小さな天使たち [VHS]

戦場の小さな天使たち [VHS]

これは嘆かわしいことであるなあと思ってTwitterでポロリと呟いてみたところ、あれよアレヨと以下のような展開になった。
















復刻DVDの販売サイトがこちら。

「戦場の小さな天使たち」 TSUTAYA復刻シネマライブラリー

そもそもわたくしのごとき明日なきチンカス野郎があの「マイマイ新子と千年の魔法 [DVD]」の片渕須直監督とTwitterとはいえ言葉を交わす光栄に浴するなんてのも、恐るべきインターネット未来世紀ならではのひとつの奇跡なのである。それにしても、いきなり会話に参加なさったツタヤ復刻シネマライブラリーさんの「その映画のDVDなら今月出しました」には心底驚いた。なんというタイミングだろうか。正直言ってレンタルだったら安いしもう一度観たいなーなんて軽く考えていたのだが、このちょっと得がたい会話の流れを体験してはもう買うしかないだろうと思って注文した。以下、二十数年ぶりに観た感想、ネタバレあります。

こどものせかい (★4)
子供の視点から描く戦時下の英国。日本では戦争といえば悲惨、戦時下といえば困窮で、なにしろ暗い作品が多いものだがこれは全然違っていた。空襲や焼け跡の非日常にワクワクしてしまうガキンチョの感性を率直に描いており、たいへん好感が持てる。

なにしろ主人公のガキンチョからしてみれば空襲警報なんてスリル満点、焼け跡の廃墟で遊ぶなんて超面白い。田舎に行ったら行ったで悠々と流れる美しい河があって、舟遊びも楽しい。愛すべき人々であるガキンチョの家族の描写も丁寧で、特にジジイなんかたまらない魅力がある。ナレーションにもあるように、まさに人生最良の美しい日々が描かれる。

勿論、戦争なんだから銃後にも悲惨はある。空襲で死ぬ人もいる。面白かったのは、クソガキ団と愉快な廃墟荒らしをしていた主人公の家がたまたまの火事で焼けてしまった話だ。翌日には、早速クソガキどもがやってきて主人公の家で大暴れ。それを見た主人公の少年、思わず怒りの鉄拳をダチンコに爆発させるのだけど、これとてあくまでガキンチョ同士の他愛もないケンカとして描かれている。この荒らす/荒らされるの立場の入れ替わりなんて我々観客にとってはたいへん味わい深いテーマを含むエピソードのひとつなんだけど、なにしろガキどもは難しいことを考えない。連中にとっては毎日がドキドキの冒険で、遊ぶのに忙しい。それは、なんと素晴らしいことだろうか。素敵なことだろうか。

戦争でひどい目に遭った人や、映画は戦争の悲惨さを表現すべきと考える人には、ずいぶん神経を逆なでにするギャグ満載のひどいコメディー映画かもしれない。文句も多かろうと思うし、オレにしたって戦勝国は気楽なもんだよなーとイヤミのひとつも言いたい気分は少しある。しかしこの映画、実際に戦時下の英国少年だったジョン・ブアマン監督の自伝的な意味あいの強い作品と聞く。当事者が「だって実際こうだったんだ」とこういう映画を作ったのなら否定のしようもないし、たとえ戦争といえども大きな悲劇だけで世界が一色に塗りつぶされるわけでもあるまいと思う。

映画のラストカットは、ド田舎をゆったりと流れる河だ。主人公の少年期を美しく彩ってくれたあの河は、戦争があろうとあるまいと関係なく、100年前にも1000年前にも同じ風景の中を流れていたであろう河だ。だからなんだと言うわけじゃあないが、あの河を見て、いろいろ大丈夫だとオレには思えたんだ。すげえいい映画だと思います。