「ミスターGO!」 go home.


昨年から観たいみたい言い続けてきた韓国映画*1「ミスターGO!」(原題:Mr.GO)を、渋谷シネマライズで観てきました。3D映画として作られたのに2D吹き替え版のみの公開で、宣伝もろくにしてないので客席はガラガラ。吹き替えはあんまり褒められた出来ではなかったので、皆さまはDVDやブルーレイを待つほうがいいかもしれません。しかしいくら配給のギャガがヘボでも「ゴリラがホームランを打つ映画」が「雪の女王が歌う映画」に興行で負けるなんて、オレの感覚ではちょっと信じられない話だ。以下感想、ネタバレあり。

どうしてこれが韓国にできて日本ではできなかったのか、国内の映画製作者の皆さんには地団駄踏んで悔しがっていただきたいところだ。悔しさを全然感じない人は、向いてないから辞めていいと思う。 (★4)
冒頭のフェイクドキュメンタリー部分は大量の情報を駆け足で消化するためのもので、駆け足のドサクサにまぎれて映画のウソを相当量観客に飲み込ませることに成功している。あんまり効率的すぎて自分の好みではないが、こういうのは最近の流行りなんだろう。

ホームランを打ちまくるリンリンの活躍をパン、ドリー、クレーン、スカイカムや空撮まで駆使して縦横に動くカメラで捉える一連のシークエンスは爽快で、野球場という空間の気持ちよさを見事に表現している。童心を刺激する音楽も素晴らしく、ここが完璧に成功しているのだから、木戸銭払って損はありません。野球競技を「ホームを出てホームに帰る」ゲームであると捉えた映画なので、打てば必ず「ホームラン」という徹底ぶり。

韓国プロ野球で活躍しても本当の大金をつかむことは出来ず、あくまで日本やアメリカへ売り込むためのショールームであること。球界のみならず、韓国映画界の現状への苛立ちのようなものを感じられて面白かった点だ。まあオダジョーのあのキャラクターは誰が喜ぶのやら、オレにはよく判らないのだけど。

最も感心したのはゴリラのリンリン、イマイチかわいくない少女ウェイウェイ、金の亡者であるスカウトの三角関係の描き方だ。ウェイウェイはゴリラ語が判る、ゴリラと心が通じている野生のエルザ或いは風の谷のナウシカとして登場する。しかし物語が進む中で、そうでもないただのサーカスの少女であることが歴然としてくる。スカウトはゴリラと少女を高層ビルの豪華で空虚なフロアに住まわせ(ガラス張りはどうかと思うが)、少女の事情などお構いなしにリンリンを日本に高く売りつけようと奔走する悪党だが、リンリンと呑んだくれて同衾したりするうちにそれだけでは済まなくなってくる。本当はリンリンのゴリラ語なんか判らない、という少女の告白にスカウトは、彼がお前を判ってるからいいんだと答える。これは人間と動物の関係を描いた数多ある動物映画の中でも珍しいほど分をわきまえた、クレバーな解答だと思った。実のところは何でもやらせられるCGゴリラに対し、一丁前の動物として敬意を払ってのこの距離感。人と動物は十全には判りあえず、十全に判りあえずともなお相通じる何かが確かに在って、互いに離れがたき存在になりうるということ。正直言って犬とか食ってる大雑把な韓国人(失礼)にこれだけの表現ができるということにオレは驚かされたし、日本映画はいったい何やってんの、弾幕薄いよ! と思わざるを得なかった。

試合の後に怪獣パニック的荒事が起こるのは全く要らぬお世話で、そもそもピッチャー役のライバルゴリラ自体が不要だったとも思う。130分を超える本作、小さな野球映画として100分程度にまとめられていたら大傑作になっていただろう。

日本配給のギャガはそもそも買いつけが遅く、公開が遅く、まともな宣伝もせず、更には2D吹き替え版のみの公開という愚挙に出てこの映画を興行的に殺してしまった。こういう映画の扱いが全然判ってない、というより知らないんだろうな。企画から脚本、制作、宣伝公開に至るあらゆるセクションで、本当に日本映画は韓国映画に挽回不可能な差をつけられたんだなあ、と実感しましたよ。

ミスターGO! [Blu-ray]

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*1:正しくは韓国と中国の合作映画でした