「平成のギラーミン」マイケル・ベイの奇跡 「ペイン&ゲイン」

マイケル・ベイさんといえばCMあがりMTVあがり、ハリウッドの典型的マネーメイキング監督として悪名を馳せた偉人である。意味なくカメラ動きまくりクルマ爆発しまくりクルマ以外も爆発しまくり、夕日をバックにヘリコプター飛ばしまくり、空虚で内実のない登場人物しゃべりまくり、位置関係や方向ムチャクチャで空間演出がまるでダメの「平成のジョン・ギラーミン」であります。見た目ばかりハッタリきいててキマってるものの、中身ゼロ知能指数ゼロの大作映画を連発してアホほど金を儲けてガッハッハ、ハリウッドの頂点に君臨している。

アルマゲドン」や「パールハーバー」なんかを観てた頃はオレこの人嫌いだなあなんて思ってたのだけど、近年は「トランスフォーマー」シリーズを馬鹿正直に全部自分で撮ってるのを見て、ああこういう人なんだなーがんばってくださいネーと生温かく見守るような気分になっていた。

日本ではDVDスルーとなったベイさんの新作「ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金」を観た。珍しく低予算映画で犯罪コメディらしいというだけしか知らなかったが、いやーこれはかなり面白かった! ベイさんの最高傑作だと思う。ロック様目当てで観ただけなんだけど、これは思わぬ拾いものでしたよ。(★4)

これは実録犯罪映画なんだけど、実際の犯人たちが驚くほどアホで、アホすぎる犯罪ゆえに警察もそんなまさかと相手にしなかったりするのだが、アホゆえに計画は破綻しまくってどんどんおかしなことになり、更にアホな犯罪を重ねるしかなくなって逮捕に至るという顛末なのである。アホアホ犯罪とはいえその過程には凄惨な場面もあり殺人だってあるのだが、ベイ先生はお得意の空虚なアッパー演出で押しきってしまう。愛せるアホを演じて全米トップクラスのマーク・ウォルバーグは実に生き生きとアホを演じている。舞台はマイアミで、言うちゃ悪いけどマイアミってのがすでにアホっぽい土地柄である。

これまで「莫大な金をかけてるくせに実はアホ映画」ばかり撮ってきたベイ先生。その中では登場人物がどんなにシリアスな芝居をしても、ギャグにしか見えなかった。だってブルース・ウイリスみたいなアホが大真面目な顔して命を捨てて地球を救う! とかやってんだもんなあ。しかし「ペイン&ゲイン」なら大丈夫。これはただアホな連中がアホなことをしてるだけの映画なのだ。そこにはベイ先生にしかできない、アホな演出こそが相応しい。登場人物はシリアスに地球を救ったりしない。犯罪一味は貧乏ボディビルダーで、筋トレとプロテインを愛し、一発逆転のアメリカンドリームを信じて杜撰すぎる犯罪計画にトライ&エラーを繰り返す。彼らの無邪気な上昇志向(ビッグマネー掴んでパツキン美女とセックスしまくりコカインキメまくり豪邸住みまくり)は、ベイ先生御本人の根っこにも同じものがあるのではないかという気さえする。まれな成功例がベイ先生で、失敗例がこの映画のボディビルダーたちなのではないだろうか。ベイ先生は地球を救うブルース・ウイリスにはまるっきり無関心だったけど、このボディビルダーたちには相当な親近感を抱いたうえに肩入れしているように思える。

これだけメガヒットだらけのフィルモグラフィーを持つ映画監督に対して言うことではないんだけど、ベイ先生は本当はこういうのが向いてるんですよ! 低予算アホ映画ばかり撮ってればいいんですよ! でも実際はそうもいくまいな。無限に金を儲けたい背広組が、来年も再来年もその先もずーっと「トランスフォーマー」やそれに準じた大作をベイ先生に撮らせ続けるに違いない。ベイ先生のスケジュールは死ぬまでトランスフォーマーでいっぱいなんや! でも10年に1本でいいから、今後もこんな低予算映画を撮ってほしいものだ。