ポニキャン垂れ幕の記憶

あれは何年前だったかよく覚えてないんだけど、虎ノ門にポニーキャニオンの本社があるんですよ。当時オレはそのあたりを通ることが時々あった。立派なビルの側面に、細長い垂れ幕がよくかかっていた。アニメ「けいおん!」一期のDVDの広告垂れ幕なんかを見てアーあずにゃんはかわええのう、なんてニヤニヤしたこともある。ああいう垂れ幕はビルに合わせた一点ものだろうからさすがは天下の一流企業ポニキャン、まあ景気のいい話である。

ある日、垂れ幕がアニメ「進撃の巨人」一期のDVD広告だったことがあった。オレはそれを眺めながら突然、なんともしれぬ奇妙な、違和感のような感覚に襲われたのだ。これは何かと、当時のオレはつらつら考えたものだ。

誰からも相手にされなかった、絵がド下手な漫画家志望の若者のただの妄想が「進撃の巨人」だった。編集者も若く、時間をかけて若者の成長を待ったうえでデビューさせ、結果大ヒットとなった。いまや講談社を食わせてやっているのは、諫山創先生である。つくづく「創作者」というものの偉大さに、我々消費豚は脱帽するしかない。無から有を作り出す「創作者」、つくりばなしをでっちあげる全ての「創作者」は偉大だ。彼らのおかげで世界は美しいのだ。オレは尊敬します。そりゃまー読者や観客として文句も言うけれど、前提としてあらゆる「創作者」はオレより偉い。関係ないけど「プロレスラー」もオレより偉い。

オレが感じた違和感の正体は、ポニーキャニオンのあの立派なビルの中にはオレが尊敬する「創作者」は1人もいないのではないか、との疑惑なのだ。だって、要するにDVD売るだけの会社なんだろ。それにしてもこの御大層なビルの中にいるスーツ着た立派そうなやつら、そりゃー諫山先生よりは薄給だろうけど、アニメ「進撃の巨人」のアニメーターなんかよりは遥かにいいカネ貰って、高い背広着て、高級車転がして、うまい飯食ってるに違いないのである。創作もせずに他人の作品のDVDを右から左へ売り飛ばして垂れ幕なんか作っちゃってウハウハなのである。そうに決まっているのである。いや事実は知らないしポニキャンに恨みがあるわけではないんだけど、まあ当時はそんな想像をしたわけです。これに限らず、何も生み出さないやつが「創作者」より偉そうにしている例はこの国の至るところにありますからね。

とにかく当時のオレは、急にポニキャン許すまじ! みたいな戦闘的気分になったわけだ。なっただけで特に何をどうするわけでもないんだけど、そんな気分を友人にふと吐露したところ、「いやーDVD売るのも立派な仕事ですやん…」と呆れられ、それもそうだな、いや、でも、しかし、なんてモヤモヤしたものだった。

さてオレがこんなしょうもない記憶を思い出したのは、9月25日のたつき監督のツイートを知ったからだ。

この件に関しては情報が少なく、web上では推測や陰謀論や下衆の勘繰りが錯綜しており何がなんだかさっぱり判らぬ状況なれど、しかしそれでも金勘定ばかりやってて創作しない連中が「創作者」に対してする仕打ちがこれなのか、とのやりきれぬ感情はどうにも抑えがたい。

「ズートピア」 正体見たり 八百長野郎 - 挑戦者ストロング に書いたように、傑作「けものフレンズ」は「ズートピア」ごときとは比較にならぬほどすぐれた作品であり、たつき監督の才能はジョン・ラセター100人分にまさる無二のものだ。この才能を失ってはならない。そう強く感じる。

けものフレンズBD付オフィシャルガイドブック (1)

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