ネタバレ前に観ましょう 「スリー・ビルボード」

スリー・ビルボード [Blu-ray]

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マーティン・マクドナーさんは、もともとアイルランドやイギリスの演劇の世界の人だそうだ。わたくし演劇のことはサッパリ判らないのだけど、この人が作った映画はなぜか観てて、「ヒットマンズ・レクイエム」も「セブン・サイコパス」も非常に面白かった。
ヒットマンズ・レクイエム (字幕版)セブン・サイコパス Blu-ray

ということで評判の高い新作「スリー・ビルボード」を観に行ってきましたよ。いやーこれがまた凄い映画で。まだ観てない人は、以下の感想も読まないほうがいいです。すぐ観に行ってください。

リアルは地獄 (★5)
あんな人が、実はこんな人だったの無間地獄。度し難い現実の袋小路で正義を求めて暴れれば、自分と周囲を無闇矢鱈と傷つける。それでも人は抵抗して足掻いて、噛みついて蹴っ飛ばすしかない。腹を据えて覚悟を決めても心は揺らぐ。もしかしたらその揺らぎにひと筋の光明があるのかもしれないし、ないのかもしれない。たいへんな重量級のお話なのに、なぜだかメチャクチャ面白い。

アメリカでは、白人警官が丸腰の黒人を射殺する。イラクでは、米兵がイラク人少女を強姦して焼き殺す。教会では、神父が少年のケツを掘る。都会では、自殺する若者が増えている(井上陽水)。この映画が相手どっているのは徹底して現実であって、それを作り手はコメディに振って描くもんだから、地獄で鬼に切り刻まれながら笑ってる人間の凄みのような、ただならぬ迫力が映画に宿っている。

雑なことを言えば、いまどきの映画って本当にレベル高い。なんせ成熟しているし、頭いいし厳しいし、練りに練られてるし、しかしサラサラいただけて、示唆に富み寓意に満ちている。この映画に限らず、名を成すような監督はみんなホントうまいと思います。昔はジョー・ダンテあたりが売れっ子で通ってたのに… いやジョー・ダンテもそれなりに好きなんですけどね…

ハッキリ言って、こういう映画ならもっと面白くなくてもいいんですよ。シリアス顔の真面目な映画に仕立てても、けっこういい評価を得られたと思うのです。ところがメッチャクチャ面白いんだよなあ… 凄まじいレベルの脚本だと思います。