PRIDE無差別級グランプリ2006決勝戦

友人たちとスポーツバーで。

疲れた。試合をテレビ観戦しただけなのにこれほど疲れるとは。とにかく疲れた。メチャ疲れた。
とにかく今日はミルコの充実っぷりが異常で、ミルコの日になった。これほどのコンディションと集中力を発揮する機会は、一人の格闘家の人生の中でもそう何度もあるもんじゃないだろうと思う。仕上がりきっていた。

もう10年前の話だが、1996年の天皇賞(秋)東京競馬場の人ごみの中、パドックを周回する馬たちを見たとき、明らかにズバ抜けて強そうな馬がいたのだ。体から炎が上がっているように見えた。その馬の名はサクラローレル、これはもうどいつもこいつも殺されると思った。不思議と速そうとは全然思わなかった。とにかく強そうだった。殺られると直感した。この印象は強烈だったが、オレは1番人気のサクラローレルを買う気はなく(競馬には往々にしてそうせざるをえない事情が生まれることがある。要するに金が必要だったのだ)、負けも覚悟で馬券から切った。代わりに線は細いが涼しげな目を持つ若駒バブルガムフェローに目をつけ、そいつを軸にした。そいつだけ少し温度が違うように見えたからだ(というより他の馬はみんなサクラローレルの餌食にしか見えなかった)。そしたらレースで横山がヘボい騎乗してローレル3着ですよ。バブルガムフェロー1着ですよ。

いやーあれはラッキーだったなあ。あの強い強いローレルが負けるとは。競馬はホント怖いですなあ。いやこの話は関係なかったな。

とにかくオレがパドックで一番強烈な印象を受けたのはあの時のサクラローレルで、今日のミルコの試合ぶりはあのローレルを思い出してしまうほど鬼気迫るものであった。これでもし負けたらミルコは「スキャナーズ」みたいに頭が爆発して死んでしまうのではないか、と思うほどに勝つことしか考えていないように見えた。「勝ち気」の純度が高かった、怖くなるほどに。

あの時サクラローレルは負けたが、今日のミルコは優勝した。これはもうしゃあないです。脱帽です。そしてベスト4の選手、ジョシュ、ノゲイラ、シウバ、ミルコはみんな素晴らしかった。よくぞこんな試合を見せてくれた。彼らには感謝したい。

でここからが本題なのだが、あのねえ、ハッキリ言って疲れるんだよ! こんな凄いものをいっぺんにやることないんだよ。アルコール度数高すぎるんだよ。むしろハイサワーとかで薄めてほしいんだよ。準決勝が終わったとき、決勝戦は大晦日でいいんじゃないかとかなり本気で思った。こんな凄いもんは、1年に1回ぐらい観られればいいんだよ。2ヶ月に1回はちょっとキツイんですよ。確かに、何のスジも通さないヌルすぎる新日あたりにウンザリして本物の「殺し」を求めたのはオレたちですよ。しかしPRIDEの出し惜しみしないストイックな生き急ぎ路線、これも正直しんどくなってんだよなあ。谷川貞治的なとぼけた興行がふと恋しくなるほど、本当にしんどくなってんだ。
観てるだけでこれほど疲れるんだから、選手たちの消耗はいかばかりであろうか。今日の試合、普通にあの人たちの寿命は5年や10年縮んでるだろ。オレの寿命だって3日や4日は縮んだぞ。どうしてくれるんだよ。

これを危惧してオレは常々「八百長やればええんちゃうん…?」、「「ネギま!」で抜けばええんちゃうん…?」と思っていたのだが、まあ八百長とまでは言わんでも、もう少しプロデュース側の工夫と努力で「薄める」ことは可能な筈だと思うけどなあ。10年前の新日なんか、サイパンで長州が砂浜をただゆーっくり走って、ただウエイトやって、ただプロテインごくごく飲むだけで30分もたせたことがあったよ。でも面白かったよ。オレ、PRIDEも時々はそういうのでいいんだけどなあ。別に毎回毎回ガッチンコせんでも、たまにはシュートボクセの飲み会中継とか、ヒョードル画伯の展覧会とかでも充分いいけどなあ。

いや、榊原社長なんかは「これがPRIDEの世界観です!」とか「闘いを忘れたピエロには上がれないリングゥーッ!」とか胸張って言うんだろうけど、ただ1ファンの意見としては正直しんどいよと。そういうファンもいるんですよと。それぐらい呟いてもいいじゃないですかと言いたくなる。だって昔はイゴール・メインダートとかエマニュエル・ヤーブローとかカイル・ストュージョンとか出てて、それなりに楽しくやってたじゃないですか。それが今じゃ韓国相撲シルムの最強横綱が来ても「通用しない!」で門前払いでしょう。総合格闘技としてのレベルが高すぎて、いや我ながら勝手でゼイタクでバチ当たりな物言いだとは思うんだけど、息苦しささえ感じてんですよ。

結局、「世界最強は誰だ!」というテーマを自分が本気では知りたくなかったということに気づかされたんだよな。むかしむかし、新日とか全日とかUWFとかFMWとか観てた頃は知りたいと思ってたよ、世界最強。だってプロレス観てても、誰が世界最強かなんて絶対に判らないようになってるんだもんな。しかしPRIDEがその命題をかなり本気でリアル探求していったとき、それはもともとはオレたちが望んだことだったんだけど、その道は想像以上にしんどいことに気づかされたのだ。「金ちゃんがショーグンにボコられる問題」(id:Dersu:20050410)あたりから、ホントにしんどくなってきてる。でもこんな凄いもんをやってる以上は観ないわけにもいかないし、いったいオレはどうしたらいいんですかね。