亀田興毅(協栄)(3-0判定)ファン・ランダエタ(ベネズエラ) (再戦)

弟・大毅の試合と対称的な試合。オレにはもう先入観があるので正直言ってヤオにしか見えなかったのだが、問題はヤオガチの白黒ではない。亀田興毅が普通にしょっぱい試合を地上波のゴールデンタイムでやってしまったという事実が、オレに重くのしかかるのだ(なぜオレに)。

今回の試合には、「圧勝を続ける」という破綻した亀田プラン(id:Dersu:20060806)を立てなおして世間のバッシングを消すというテーマがあった。亀田一家はこのテーマに関して半分は成功したかもしれないが、それ以上に大きなものを失ったのではないかと思う。
いつもいつも話の最初に戻って申し訳ないのだが、結局この話題は「亀田一家が世間から注目されるのはなぜか」を抜きにしては語れないのだ。その理由は勿論「ボクシングが強いから」ではない。「おもしろDQNだから」である。つまり亀田一家はキャラクターの特異性にこそ商品価値があるのであって、世界チャンピオンになったから有名になったわけではない。
亀田一家の面白さは、普段ボクシングなんか観ない大多数の人々にも伝わるものだった。逆に古きよきボクシングファンからすれば、亀田一家のパフォーマンスはボクシングの悪夢じみたパロディのように思えたに違いない。亀田一家が一貫して主張してきたのは決してボクシングの面白さではなく、従来のボクシングとは違う「亀田ボクシング劇場の面白さ」だ。カマセ相手(或いは八百長)だからこそ高確率で実現する派手なKO劇。ビッグマウスラウドなヤンキー文化の復権。おもしろDQN発言、豊富な小ネタ、ビジュアルショック、歌も歌うし亀田弁当もおいしいですよと。
この姿勢は大いなる反感も生むが、とりあえず世間からは注目はされる。このきわもの路線に体を張り人生を賭けて挑んだ亀田一家はやはり凄い、いやあ大したもんですよ! とは思うものの、8月の世界戦が生んだ世間からのバッシングは想像以上に大きかった。そのバッシングを消すための試合をせざるをえないところまで追い込まれたのが今回の再戦だ。
これは(儲けはともかくとして)旨みのない試合である。この試合のテーマは「マイナスをゼロにする」ことであって、イケイケで嘘のようなプラスを重ねてきた今までとは違う。だから亀田はどこからも文句が来ないよう、倒す気のないしょっぱい凡戦をしてポイントを集め、判定で勝利した。ファンタジー路線から一転してリアリズム路線をとったわけだが、オレの目にはそれさえもヤオに見えたというお粗末であった。
TBSでは「圧勝」と言っていた。明日の新聞にも「圧勝」と書かれるのかもしれない。しかしたとえ事実そうであったとしても、今まで亀田一家が相手にしてきた客層、今回の放送を観ていたほとんどの視聴者は「判定での圧勝」などといういぶし銀をいきなり提示されても理解できるわけがない。そりゃそうだよ、亀田興毅自身「亀田とKOはセットや」って言ってきたんだから。文脈がおかしいんだよ。
「つまらない試合」をやってしまったことのダメージは、亀田一家にとって小さくないと思う。目先のバッシングを押さえ込むために、彼らはもっと大きいものを失ったのではないか。「亀田一家の商品価値」は、今回の試合で著しく傷ついた。8月の世界戦後よりも、ずっと深刻な状況だと思う。だって、大多数の視聴者から見ていちばんつまらない試合になってしまったんだから。亀田プランの破綻は試合後のコメントにも表れていた。あんな試合の後に「どんなもんじゃー」はないよなあ。そんなマイクのイロハさえ誰も教えてくれない、腫れ物にでも触るような雰囲気が亀田一家を包んでいるのである。この列車はいったいどこへ向かっているんだ。
オレが思うにねえ、もうドーンと八百長すればよかったんですよ! もうねえ、いっそ大毅の試合みたいに露骨にやりゃよかったんですよ。亀田興毅は嘘みたいな圧勝をして大ヒールになるか、そうでなければランダエタに敗北するしかなかったと思う。別にノックアウトで負けなくても、判定負けとかどこか切ってドクターストップとかローブローで反則負けとかでもよかったよ。
本当はオレだって世間の皆様と同じく、亀田を観てもっとブーブー文句を言いたかった。ワーワー騒ぎたかった。しかし今夜の試合でオレは、一度は世間を巻き込んだムーブメントがその勢いを失いはじめる瞬間を目撃することになった。それがいい運動体でも悪い運動体でも、勢いをなくすものに立ちあうのはなんとなく寂しい。侘しい。だから今こそオレは世間の皆様に言いたい、「この列車から降りるなよ! 降りるなよ! いいか降りるなよ!」と。1回や2回、試合がつまらなかったからといって亀田一家に興味をなくさないでほしい。お前ら今まで散々亀田の話題で盛り上がったんやないか。最後の最後までしっかり食いついていけよ、まだまだ先は長いぜい、と思う次第なのであります。降りるなよ!