柳沢きみお「DINO(ディーノ)」の格闘芸術

すてきな格闘理論 - 挑戦者ストロング
で書いた柳沢きみおのクソマンガ「DINO(ディーノ)」、どうにも気になるので久々に読んでみようと思った。今読んでみれば意外と面白いかもしれないし、やはりクソマンガだとしてもあの格闘場面だけはもう一度読んでおきたい。

昨日、手当たり次第に近所のマンガ喫茶に電話して「柳沢きみおのDINOというマンガはありますか?」と聞いていった。これはかなりハイレベルの羞恥プレイだった。さすがにクソマンガだけあって、置いている店はなかなかない。十数軒目でやっと「あります」という返事をもらった。そして今日、意気揚々とそのマンガ喫茶へ行ってみると閉店してて、なにやら水道の水が漏れたとかで今日だけ臨時閉店しますと貼り紙がしてあった。これ、そこらのショボいマンガ喫茶じゃないですよ。新宿の紀伊国屋書店の隣の隣の地下あたりにある、大手チェーンのマンガ喫茶の本店ですよ。年中無休24時間営業の大手マンガ喫茶に「DINO」を読みに行ったら「今日だけ」閉まっていたのだ。

さすがにわたくしも考えた。どう考えても負ける流れだ。こんなアヤがついた以上、「DINO」なんてクソマンガのことは忘れて家に帰って寝たほうがいい。しかし、しかしわたくしにも意地というものがあります。今日「DINO」を読むのだと決めた以上は読まねばならぬ。男なら、負けると分かっていても戦わなくてはならない時がある。なにしろそんな気分になってしまったので、とりあえずそのへんの別のマンガ喫茶(当然「DINO」は置いてない)に飛びこんでネットでマンガ喫茶を調べ、また羞恥プレイ電話をかけて「DINO」を探した。数軒目にかけた渋谷のマンガ喫茶にあることが判明。もうヤケクソ気味でバイクにまたがり渋谷へ向かった。

で読んだんですけどね。これがもう、ホントにクソマンガでね。全12巻を読み終えて外に出たら土砂降りの雨でね。ズブ濡れになってバイクで帰ってきた。もうやだ。

さて、問題の「クラウチングスタートの姿勢で始まる空手」をご紹介する。この異端の空手を使うのはSPの熊塚という男で、彼はディーノを捕らえたい。ディーノは正体を隠して逃げたい。2人はそういう関係で対峙する。

「言っとくが、俺の空手は少し変わっているぞ」 身を屈める熊塚。

「!」

「俺があみだした、最強のかまえだ!」「まァ、熊塚流とでも言っとくか!!」 マジかよ

「このかまえを俺にとられたら、もうどうあがこうと逃がれられない!!」「ウソだと思うなら逃げてみるか!?」

熊塚の言う通り、ディーノは走って逃げようとするんですよ。すると熊塚はクラウチングスタートの姿勢からロケットスタート、そのままタックル(ほとんどスピアー)をかましてディーノを倒してしまう。そして再びクラウチングスタートの姿勢をとるのだ(なぜだ)。
「ダ、ダメだ…とても逃げられない!」とディーノは悟り、闘って熊塚を倒すしかないと悟る。
低すぎる姿勢の熊塚に戸惑うディーノ。ローキックを放つが、なぜか易々とかわされてしまう(なぜだ)。隙を見せると高速タックルで倒されたり、壁に叩きつけられたりする。打つ手のないディーノ。

強すぎる熊塚さんに焦るディーノ

「くそーっ、こいつはなんて空手を考えつきやがったんだ!!」 それってもしかして空手?

まあ数ページ後にはディーノが起死回生の大逆転(これもメチャクチャなんだ)で勝つんだが、柳沢きみお先生の描きだすこの路上のファンタジーファイト、やはり面白いと思ったなあ。早すぎた(間違いだらけの)「ホーリーランド」ですよ!

「DINO(ディーノ)」がスピリッツに連載されていたのは1992年〜1994年で、この熊塚流空手の載ってる5巻が出たのが93年4月だから、雑誌に掲載されたのは1993年前半とみて間違いない。この1993年という年はプロ格闘技元年とでも言うべき激動の年で、4月にK-1が旗揚げ、9月にパンクラスが旗揚げ、11月にUFCが旗揚げしている。

格闘技ブーム前夜にクソマンガの巨匠・柳沢きみお先生が描いた路上のとんち合戦…誰も覚えてないだろうし、いまさら誰も語らないし、「DINO」は間違いなくクソマンガなんだけど、宇宙の片隅でこういう誰も幸せにしない闘いが行なわれていたということを、ここにこっそり記しておきたい。