- 作者: 西村雄一郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/08
- メディア: 単行本
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この本の白眉はやはり、著者と黒澤明本人との邂逅場面。黒澤明をテーマに卒論を書こうとしている大学生だった著者は、黒澤の自殺未遂に大ショックを受ける。数ケ月後、池袋あたりの名画座で「野良犬」だか「天国と地獄」だかを観ていると、隣の席にやたらデカいおっさんが座る。顔を見るとなんと黒澤明本人である。上映終了後、勇気を出して黒澤明に声をかける著者。かくして高田馬場のビヤホールで、黒澤ファンの大学生は世界の巨匠と話しこむことになるのだ。進行中の「デルス・ウザーラ」や、一時頓挫した「暴走機関車」への思いを語る黒澤明(本人)。公にはついに語られなかった自殺未遂の心境を語る黒澤明(本人)。しかもビールは黒澤のおごりである。ゴッチン!
この場面は夢のような幸福感に満ちている。いったい世の中の何パーセントの人々が、生涯の憧れの人と偶然出会い、一緒にビヤホールに行くなんて体験ができることだろう。西村氏はこのエピソードを様々な著作の中で何度も書いているが、何度読んでも感動するのであった。