竹内さんの新作小説「ウルトラマンの墓参り」

竹内義和 - Wikipedia

ウルトラマンの墓参り

ウルトラマンの墓参り

竹内義和といえばアレでしょ、故・今敏監督のアニメ映画「パーフェクトブルー」の原作者。
PERFECT BLUE [DVD]

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というのが一般的な認識かもしれないが、オレにとってはそうではない。1972年高松生まれのオレにとって、竹内さんは悪徳の都オーサカに巣食う元祖オタク、その伝説的な先達だった。同じく大阪にゼネラル・プロダクツという城を構えていたオタクの雄・岡田斗司夫ガイナックス設立と共に東京へ去ったが、竹内さんは今も大阪で活動を続けている。
オレがはじめて竹内さんの仕事に触れたのは「大特撮―日本特撮映画史」という本だった。

大特撮―日本特撮映画史 (1979年)

大特撮―日本特撮映画史 (1979年)

これは今でもお薦めできる、映画史に残る名著である。日本の特撮映画ほぼすべてを網羅し詳細に解説した本だった。竹内さんは構成だか編集だかを手がけ、おそらくはライターとしても記事を書いている。ビデオが普及し始めて間もない頃、つまり特撮映画なんて全然ソフト化されてなかったあの時代に、わけのわからん古臭いマイナー特撮映画の詳細なディティールまでもがまるでコマ送りで確認されたかの如く解説され、作品論が展開されている。当時の「オタク」どもの凄さが窺い知れる。10代の頃のオレはこの本に感激し、あの手この手で片っ端から特撮映画を観まくった。合法とは言い難い方法で鑑賞した作品も数しれぬ。
竹内さんを有名にしたのはヒットした著作「大映テレビの研究(1986)」と、大阪ABCラジオで長年放送した「サイキック青年団」だろう。オレも御多分に漏れず、番組開始から上京する1991年までの高校3年間欠かさずサイキックを聴き、ものの考えかたに絶大な影響を受けた。
しかし竹内さんの初小説「パーフェクト・ブルー 完全変態」には、当時ガッカリした記憶がある。
パーフェクト・ブルー―完全変態
物語そのものは面白かったのだが、文体があまりにもショボかった。地の文が不意にしゃべり言葉のようになったりするし、残酷シーンで頻発する安っぽい擬音には辟易とした。あの時代にライトノベルなんて言葉はなかったし、ライトノベルどころか内容は18禁レベルのサイコホラーである。この本は、宮崎勤事件とそれに触発された世間のヒステリックな魔女狩りに対するオタク側からの回答のような意味合いも持っていた。時に、道を外れる(文字通り外道だ)オタクもいる。宮崎勤は誰の中にも少しずつ存在する。サイコホラーであること自体がすでに自虐的な総括でもあるという、いかにも捻れた、ブサイクな、しかしちょっと忘れがたい本だった。オレ自身にとっても、思春期に出っ食わした宮崎勤事件とその巨大な波紋は最大級の衝撃だったのだ。
今敏監督のアニメ映画「パーフェクト・ブルー」は全然別物だ。宮崎事件に対する、世間の側に立った作品だ。ま、そりゃあそうするしかないよな。高品質なアニメ「パーフェクト・ブルー」は世界中で高い評価を受け、後にダーレン・アロノフスキーにもマネされ、今敏は巨匠になり、オレは今敏がキライになった。
さて竹内さんの新作小説「ウルトラマンの墓参り」を読んだ(前置き長いな)。これはですねえ、なんと言いますか… なかなかどうして、非常によかったですねえ…
予測しがたい展開に妙味があるので、ネタバレしない方が絶対にいい本だ。帯にネタバレが書いてあるので、帯はすぐに捨てた方がいいよ。
残念ながら、相変わらず地の文に「マジで突然だった」などと書いちゃう風格のなさはある。しかし、伝説的な元祖オタク・竹内さんがちゃんと書きたいものを、常人には計りしれぬほどのウルトラマンへの思い、それとともにあった青春を、変にひねくれずに書いてくれたことが、今もオタクの末端にぶら下がっているオレには嬉しかった。グダグダ始まって徐々に加速してゆき怒涛のクライマックスに至る構成や、ウルトラマンがなぜか墓参りをしているという引きのある鮮烈なイメージなど、作者が立てた戦略がことごとくきちんと機能していることの気持ちよさ。あのー、詳しくは書けないんだけど、ちょっと唐突な感のあるタガメのエピソードなんか、本当に素晴らしかったですねえ… これは売れてほしい本だし、竹内さんやオタク文化に思い入れがない人にどう受け取られるのかは正直言ってよくわからないんだけど、わりと本気でいずれ映画化されるんじゃないかと思います。そういう「強度」のようなものを感じました。