「海底軍艦」 日本人の葛藤

【東宝特撮Blu-rayセレクション】海底軍艦<Blu-ray>

【東宝特撮Blu-rayセレクション】海底軍艦

久々に「海底軍艦」を観て、CinemaScapeのコメントも書き直しました。

かつての悪しき日本を未来の良き日本が打倒する、葛藤の映画 (★3)
恐るべき超兵器を世界平和のために使う轟天建武隊の姿は、あらゆる意味で第二次世界大戦の「やり直し」を行なっているように見える。

史上最大の戦艦大和は世界に誇る超兵器だったが、活躍する前に撃沈されてしまった。本物の超兵器・原子爆弾の威力は人類史上最大の悲劇を生んでしまった。戦争末期の神頼みは結局被害を大きくし、悔やんでも悔やみきれぬ。その結果日本は敗れたのだが、大東亜共栄圏の理想そのものは正しく美しかった筈だ。ああそれなのに。「本当はこうしたかったんだ」「こうだったら、どんなによかっただろう」という日本人の願望が「海底軍艦」には溢れている。たったひとつの超兵器・轟天号が世界を救う「海底軍艦」は、戦艦大和の弔い合戦である。

興味深いのはムウ帝国の造形だ。古代エジプトっぽい意匠でかつての植民地を返還せよと要求するムウ帝国の実態は、ただひとりの女王を崇める皇国である。これは天皇陛下をいただく大日本帝国のようでもあり、女王卑弥呼をいただく邪馬台国のようでもある。「海底軍艦」は、かつての悪しき日本を未来の良き日本が打倒する、葛藤の映画なのだ。一方で、打倒される日本への哀惜の念も見てとれる。複雑な心境なのである。「海底軍艦」は、正しく葛藤する「戦後の映画」だ。

これが「宇宙戦艦ヤマト」になると、遥かに図々しいことになる。ガミラス帝国は明らかにナチスをモデルにしており、安心して攻撃できる外部の敵として描かれる。戦争を知らない子供たちは、ちょっと待てドイツは同盟国やんけとはツッコまないから安心だ。カミカゼ特攻は安易に美化され、過去との葛藤は失われる。要するに、石原慎太郎が支持するようなフィクションとなる。もっとオタク寄りの純フィクション「宇宙戦艦ヤマト2199」は、オレも好きだけどね。でもヤマトには、ドリルがないからなあ。やっぱり男はドリルだよ。ドリル。