「櫻の園」

櫻の園【HDリマスター版】 [DVD]

櫻の園【HDリマスター版】 [DVD]

  • 発売日: 2012/03/30
  • メディア: DVD
中原俊の「櫻の園」は1990年の映画で、VHSのビデオになってすぐレンタルで観たと思う。なにやら判るような判らんような話だったが、女子高独特の雰囲気(諸説あります)になんとなくドキドキした記憶がある。今回、およそ20年ぶりのDVD鑑賞。この作品が源流となり「けいおん!」に繋がるんだなー(ヨタ)。

その日誰かが「櫻の園」中止になんねーかな、と思っていた (★4)


杉山はよりにもよって「櫻の園」上演の前日、煙草を吸ってとっ捕まる。それを連絡網で知った志水は、頭にパーマをあてて登校。女役に戸惑う倉田は志水に「櫻の園」なんか中止になればいいと思っていたとゲロる。再三出てくる非常ベルを押してみようかみまいか、鳴るか鳴らぬかの場面なんて完全に繰り返しのギャグだ。


それが終われば引退卒業する3年生にとって「櫻の園」上演はたぶん、少女から大人になること、通過儀礼、ひと夏の経験、「ふわふわ時間(タイム)」の終わりを意味している。恋する少女にとっては、意中の佳人との濃密な時間が終わることと同義だろう。


大人になること、自分が変わってしまうことに抵抗を感じ、過ぎ去る今の時間をそれぞれに惜しむ志水、倉田、杉山。つみきみほ以外はジャガイモゴロゴロみたいな容姿の皆さんだけど、丁寧な描写のおかげでとてもキャラクターが立っている。お嬢さん女子校に息が詰まる思いの杉山は他校の悪友とのつきあいに救われながら、志水への思いを募らせる。志水が見ているのは自分ではなく倉田であることを知りながら。「目覚めた」という志水のパーマは、杉山反逆の狼煙(煙草だけに)を受けて呼応した彼女の反抗的気分の表れだ。はっきり言って志水はこの日、誰よりも気合いが入っている。「櫻の園」上演のこの日、彼女は倉田に思いを伝えることを決めているように見える。ダサいパーマでキメた。慈しむように倉田の衣装と踊り、ひとり屋上でアニマル浜口ジム仕込みの大声を出す。倉田の衣装につける白いヒラヒラを作り、つけてあげる。あとは記念写真と告白でフィニッシュや! あの記念撮影を裏で聞き、傷だらけの胸におさめる杉山。顔で笑って心で泣いて、男前だよな。


2年生の城丸は冒頭から登場し、彼氏のチャラ坊とイチャイチャしてみせる。上記の如き思春期のゆらぎとはすでに無縁な存在だ。年下ながら、彼女は劇中ほとんど唯一の非処女、大人として3年生の青春群像の狂言回しとなる。このへん非常に変テコというか、トリッキーな構造だ。


上映時間のほとんどは、稽古場が舞台だ。ここは少女と、大人になりかけのモヤモヤっ子が共にゴチャゴチャのまま居られる特別な場所だ。だからあの記念撮影が稽古場の中でもなく、完全な外でもなく、その間にある狭い中庭で行われるのは実にしっくりくる。大人になってしまうその前にちょっとだけ待って、今かけがえのないこの刹那の一瞬を忘れたくない、という切なくていい場面だ。そして少女たちは「櫻の園」を演じ、大人になってゆく。それなのにオレ様ちゃんときたら四十郎のおっさん面ぶらさげて「櫻の園中止になんねーかな!かな!」と毎日思い続けている。どうも申し訳ありません。