11.12と11.15に見たプロレスの断面

ありがたくも不思議な縁があってお誘いを受け、仙女ことセンダイガールズプロレスリングの11.12後楽園ホール大会を観戦した。お目当ては旧姓・広田さくらの名人芸と、仙女vsスターダムの5対5勝ち抜き団体対抗戦である。

広田さくらの突き抜けた達人ぶり、里村明衣子の役割への過剰な入りこみの迫力は知っていた。突然変異の天才広田と長与の遺伝子を色濃く受け継ぐ里村は、ともに銭のとれるプロレスラーであります。まーそんなことはすっかり女子プロレスに疎くなってしまったオレなんぞよりも、詳しく語れる人がいくらでもおられることだろう。

この興行最大の衝撃は、仙女の新人・橋本千紘だった。勝ち抜き戦の先鋒として登場し、圧倒的強さでスターダムを3人抜きして紫雷イオに敗れた。橋本は日本大学レスリング部出身で、先月仙台でデビューしたばかりのド新人だ。しかし、疑いようもなくすでに本物である。

彼女の一挙手一投足に、どよめきがホールを揺らした。自分の強さを持て余し、どこか戸惑っているかのようなその佇まいに、目の肥えた後楽園の観客が一発で心を掴まれてしまった。スレきったプオタ相手に何がウケるかばかりを考えざるをえず、すっかり脳化社会と化した現代の女子プロレスの世界に彼女はただシンプルで骨太な「強さ」だけを握りしめ、ノープランでリングに立っていた。その純粋さたるや、汚れちまったわたくしなんて目がつぶれるんじゃないかと思うほどの眩しさだ。文明社会に迷いこんだキング・コングの如き極上の天然素材である。またスターダムの何でも器用にこなせるおキレイな女の子たちが相手だけに、橋本千紘の「本物」感は実に際立っていたんだよなあ。格闘芸術を愛してやまぬプオタ諸兄よ、彼女を覚えておいていただきたい。

さて彗星の如く現れた橋本千紘の興奮冷めやらぬうちに、11.15両国国技館天龍源一郎引退興行が行われた。当日は仕事で観られず、翌日ネットの新日本プロレスワールドで観た。

webでは多くの諸兄が天龍引退試合の感動と興奮を綴っておられ、もはやオレが付け足すことなど何もない。歩くのもキツそうで要介護認定されちゃいそうな状態の天龍を相手に、現役ビンビンのオカダ・カズチカは試合を成立させてみせた。あの天龍が、こんな状態になってなお懸命にチョップを放つ姿には泣かされるよなあ(同興行では藤原喜明にも泣かされた)。しかし腕の1本も動けば、できるプロレスはある。障害者プロレスドッグレッグス」を持ち出すまでもなく、オレの脳裏には現役最古参レスラー(当時)ミスター珍の記憶が色濃く残っている。珍さんがそうだったように、天龍もできることをすべてやって敗れ、若者のコヤシになった。オレは天龍を好きだったこともあったし、嫌いだったこともあったよ。両国に来てくれたテリーとハンセンとともに、天龍はテキサスの化石になった。黒はプライド、黄色は劣等感。さようなら、天龍源一郎

同興行のセミファイナルでは藤田と諏訪魔がファンの不興を買い、大日本の関本大介岡林裕二が株を上げた。プロレスラー藤田は全然買わないが諏訪魔は大好きなオレは、なんとも煮えきらぬ複雑な心境になった。確かに諏訪魔は、まーいろいろうまくねえよな。判ってるんだ、判ってて好きなんだけどな。

プロレスラーとしては何ひとつ褒められない藤田はともかく(健介に胴締めスリーパーして3カウントとられた両国が代表作)、諏訪魔の燻りっぷりにはため息しか出ない。2012年にオカダ中邑組と当たったタッグ(あれも両国だ)からもう3年。今やオカダは設定に中身がだいぶ追いついてきて、天龍の最後の相手に選ばれ、キャリア上極めて重要なこの試合を作り、倒した天龍への礼ひとつで多くを語らずにすませられるレスラーになった。対して諏訪魔は、何も成長していないように見える。今回も机を持ちだしていたが、諏訪魔は「暴走」して大暴れすれば客が喜ぶと思っている節があり、しかも暴走の中身ときたら机やイス攻撃なのである。このステージの低さ、もう可愛げとは言ってられないキャリアの筈なのだ。オカダとは比べものにならぬ金無垢の素材なのに、頭と環境の違いでこれほどの差がついてしまう。人間くらべは、時に残酷だ。

こういう時にどんなことを考えればいいか、オレは知っている。かつてミルコ・クロコップに蹴っ飛ばされて失神したドスカラスJrことアルベルト・デル・リオは先月華々しくWWEに電撃復帰し、ジョン・シナさんを撃破して大復活を遂げた。一方、ミルコは薬物騒動とともにドサクサ引退。デル・リオさん完全勝利! 敗北を知りたい! 人生は長いのさ。