更新され続けるジャンル映画

日夜メディアで報道される世の中のあれやこれやに対しては「お前らはまだそんなことをやっているのか」(「未来少年コナン」のオジイより引用)などと思うことの多い意識の高すぎるわたくしではありますが、その逆っぽいことがあったので書きとめておきたいのです。

先日、DVDで「ズーランダー」と「ジム・キャリーはMr.ダマー」を久しぶりに観た。「ズーランダー」は公開時に劇場で、「Mr.ダマー」はソフト化された時にVHSで観ており、どちらもたいへん面白く、大いに笑った記憶がある。だからまあ安心してもう一度観てみようと思ったわけなんだけど、これがですね、思いのほかなんちゅうか、あんまり面白くなかったのですね。ギャグの手数が少なく、笑えない時間が意外なほど長かった。

一方で現代のアメリカ産コメディ映画、多くはDVDスルーではあるけどオレはサムタイムときどき観ていて、これらは普通に面白く、笑えるものが多いと感じる。最近はジャド・アパトー一派の成功で、ボンクラ男の通過儀礼ものがジャンルを席巻している印象だ。

さて主観ばかりで話を進めてなんだか申し訳ないが、2001年の映画「ズーランダー」と1994年の映画「Mr.ダマー」が今観るとあんまり面白くなかったというのは、非常に健全で結構なことだと思ったのだ。それはコメディ映画というジャンルが先人の仕事にプラスする形で年々更新され、進歩し続けていることを意味するからだ。まー極端な話、今どきのヤングはエンタツアチャコ早慶戦では笑わないという話である。上記2本は今なお愛せる映画であるし、自分もやっぱり好きだ。また時間に劣化されない「古典」という存在もあるのだけどここでは考えず、あくまでもナマモノのコメディとしての話であります。

たとえば「ズーランダー」は「モデルはみんな頭空っぽのアホばかり」とするバカ映画に本物の一流モデルがカメオ出演しまくり、ファッション業界全体がこの悪ふざけに乗ってくれた感じが当時は実に面白かったわけだけど、この構図は2007年の傑作「俺たちフィギュアスケーター」によって受け継がれ、見事に「更新」された。なにしろフィギュアスケートの歴代名選手たちが「フィギュアスケートってなんか変じゃね? オカマっぽいし」というバカ映画にノリノリで出演しまくり、観客は思わず「お前らそれでいいのか!」と突っ込まざるをえない始末。「俺たちフィギュアスケーター」の製作には、ベン・スティラーの名前がある。彼は「ズーランダー」で発見したオモシロを、より洗練された完璧な形で実現させたわけだ。かくして「ズーランダー」は古びて過去の映画になったわけだが、わたくしコメディ映画には「今観て面白いか」とは別に「公開時にどれだけウケたか」「後の作品にどれだけ影響を与えたか」という価値基準もあると考えるので、これをもって「ズーランダー」の価値が下がったとは思わない。むしろ映画史的に重要な作品であることが証明されたと思っている。

斯様な進歩はホラー映画やアクション映画など、さまざまなジャンルで起きていることだ。たとえば日曜の朝にやってる東映特撮や東映プリキュアなんか毎年毎年毎週毎週似たようなことばかりやっているせいで、予算が上がったわけでもなかろうに映像の質がどんどん上がって四天王プロレスみたいなことになっておるではないか。

昨年は「Mr.ダマー」の20年ぶりの続編が作られ、今年は「ズーランダー」の14年ぶりの続編が公開されるそうだ。ファレリー兄弟ベン・スティラーも、果てしなき「更新」の歩みを止めていない。立派な人たちだなあと思うのです。

ズーランダー スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]
ジム・キャリーはMr.ダマー [DVD]
俺たちフィギュアスケーター [DVD]