プロレス必修科目としての新間寿とジャパンライフ

1980年代前半、空前絶後の人気を誇った頃の新日本プロレスを知る者にとって、いま現在、新間寿という名前はどう響くのだろうか。

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新日本プロレス営業本部長。アントニオ猪木の女房役。猪木アリ戦を実現させた立役者。タイガーマスクを現実のリングに登場させた、2.5次元興行の祖。「プロレスブームではなく、新日本プロレスブームなんだ」と言い放つ稀代のアジテーター。過激な仕掛け人。リングの目激者。WWE殿堂レガシー部門入り。

猪木との長きにわたる愛憎劇は我々を翻弄した。クーデター未遂事件。旧UWFの旗揚げと崩壊。スポーツ平和党の立ち上げ。猪木への告発。連日ワイドショーで醜態を晒した狂乱劇(世間では、新間といえばこれしか知らない人も多い)。アントニオ猪木PKO*1。10年近い断絶を経てからの、猪木との和解。バカ息子・新間寿恒がオモチャにしてしまったユニバーサルプロレス。

新日が人気絶頂の時代でさえ、誰が書いたか忘れたがなんかのプロレス本(「激突! 馬場派VS猪木派」だったかな)において

新日本プロレスは、猪木の燃える「赤」と新間の陰謀の「黒」がまだらに混じりあう、ドス黒くて不気味なカラーのイメージ」

などという評を読んだことがあるくらいだ。それは当時の猪木信者(オレ)にとってさえ、マ、そらーそうですよね… と思ってしまうような指摘だった。

現在の新間寿は、佐山聡リアルジャパンプロレス会長の印象が強い。タイガーマスク絡みなら、NHKにも堂々と出ちゃう(NHKはこいつがどういう男か判ってんのか?)。病魔に冒された佐山を、隣でサポートしてくれてる。ハッキリ言って、好々爺然としたいい人のように見える。そのように見えるのだ。しかし、しかし我々は知っているのだ、この男がやることなすことムチャクチャな昭和暴走オヤジであることを。ド汚いことも平気でやる男だということを。嘘を話しているうちに自分で自分の嘘を信じてしまう、救いがたい男だということを。我々は新間とのつきあいが長すぎて、もう何がなんだか判らなくなっているのだ。新間がなした数々の仕事のおかげで、我々の人生がどれほど豊かになったことか。その一方で「ぼかー新間寿の味方です」なんて表じゃ絶対言えないのは、彼が汚い業界でなおわざわざ手を汚してきたことも知っているからだ。かなり世話になってる親戚の面白おじさんはオレにはやさしい顔も見せるけど、実際は強盗殺人の経験があってオレもそれっぽい現場を目撃したことのある犯罪者。オレにとって、新間はそんなイメージの人だ。プロレスファンならば、イヤそりゃー昨日や今日や平成にファンになった人は新間なんて知らんでも全然いいんだけど、恥ずかしながらも昭和のプロレスファンならば、新間寿のダークサイドもプロレス必修科目のひとつなのではないかと、おっさん斯様に思うわけです。

クーデター未遂事件のあと新日から追放された新間寿は、ジャパンライフの役員になっていた。知ってますかジャパンライフ。悪徳マルチ商法の、あのジャパンライフです。安倍晋三が「桜を見る会」の総理枠で創業者の山口隆祥を招待した、あのジャパンライフです。知ってか知らずか安倍晋三が広告塔になっていた、あのジャパンライフです。

今回紹介する書籍は、新間寿マルチ商法ジャパンライフをひたすら褒め称え、行政やマスコミからの批判を不当と決めつけ罵倒し、詐欺被害者を負け犬と蔑む凄まじい本である。今どきこんな本は吉田豪くらいしか持ってなさそうなものだが、オレはこの本を大阪の図書館で探し当ててその一部をコピーしてきた。カラーコピーはできなかったので白黒だが、ホントは黄色い表紙です。

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図書館でこの本を書庫から出してもらうのは恥ずかしかった

以下、まえがきと目次、奥付を小さい表示で。ちゃんと読みたい方はクリックで拡大、いや、まあでも、別に誰も読みたくはないのか… 図書館でコピーした書籍の一部をブログに載せるのは、たぶん「個人使用目的」を逸脱していると思う。決して褒められることではなく、その筋に怒られたら消すしかないし、謝るしかない。しかしこれにもなんぼかの意義があると信じてブログに載せる。

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奥付の紹介文「その理論と行動は高く評価されている」って、新間寿がどこの異世界に転生したらそんな話になるんだよ。新間がこんなことやってたのも大概アレなんだけど、驚かされるのはこの本が1986年出版ということだ。えらい昔である。オレはなんとなく、ジャパンライフって桜を見る会でここ数年で話題になった新興悪徳企業かと思っていたのだ。しかし事実は1975年創業、マルチ商法黎明期からの草分け企業なんだな。この本の前年1985年は豊田商事事件、豊田商事会長刺殺事件があって、様々な悪徳商法が新たな社会問題として世間から注目された年だった。創業者の山口隆祥は告発され、国会でジャパンライフ問題が審議され、被害者の会の皆さんはヨヨヨと泣いていた。1986年、この官民あわせた大バッシングにひとり敢然と立ち向かった勇者こそ、我らが過激な仕掛け人・新間寿その人だったのであります(死にたくなる)。

ザッと目次に目を通していただきたい(本文なんか読む必要ない)。悪党が罪を逃れようとする時に使う詭弁の博覧会のようだ。堂々と嘘をつき続け、おどしたりすかしたり、責任転嫁したり、正当化したり、居直ったり、話のスケール変えてごまかす、全然違う話をしてごまかす、質問に答えず都合のいいことだけを喋ってごまかす。今まさに告発されている分際のくせにそれはアッサリ無視して、どこか外側に別の悪を設定して声高に告発してみせ、まるで正義の人、のようなフリをする、フリするだけではなく、貫徹する。やりきってみせる。演じきってみせる。いや、これがプロレス界のイデオロギー闘争におけるアジテーションなら一種の「芸」としてわたくしも積極的に評価したいところなんだけど(ポール・ヘイマンみたいな)、このケースは根本的に違ってて、お人好しの善良な人々を騙して、財産盗んで、大金せしめた後に堂々とやってんのがこれだからね… これは現世に現れた地獄ですわ。ま、近年はあろうことか日本政府がこのようなふるまいをしていることに心を痛めている諸兄も多いことだろう。

オレが不思議なのは、要するにマルチ商法って豊田商事事件の余波で早々にケチがついた、傷モノのビジネスなわけでしょう。そんなもん、さっさと会社を畳んで屋号も変えて、別の怪しげな商売を始めればいいじゃないですか。しかし全然、むしろ断然、新間たちはやめなかったわけだよな。いったいどんだけボロい商売なんだ。儲かって儲かってしょうがなかったのか。ジャパンライフはその後も市井の人々の金を巻き上げつつ存続し、2010年代に行政処分を喰らいまくって2017年に倒産する。75年創業だからおよそ40年にわたって市民の生き血を吸い続けたことになる。正直言って羨ましい。「オーナービジネスは詐欺ではない。違うよ全然違うよ」と言い続けてきた創業者・山口隆祥は先日、2020年9月に詐欺罪で逮捕された。ずいぶん長く泳がせたもんだな。そして80年代からずっと問題になっていたジャパンライフの創業者を「桜を見る会」に招待して一緒に桜を見ようとしていた安倍晋三も、まったくもっていい根性してるのである。

我々世代がプロレスに出会った幼い日に、すでに猪木の横にいた新間寿。新間の人間像が好きとか嫌いとか(最初に言い出したのは誰なのかしら)以前に、ハナからそこにいたためになしくずしにプロレスファンが認め、受け入れてきた男。その新間寿とは、昔っからこういう詐欺野郎なのだ、少なくともその人間像の一面は(一面でたくさんだ)。ちなみに新間、近年はやっぱり「レンタルオーナービジネス」を名乗った実質マルチ商法「WILL」あるいは「VISION」で元気いっぱい詐欺(的)行為に勤しんでいるという。

web.nc-news.com

佐山聡や適当な芸能人を広告塔に使い、自民党杉田水脈衆議院議員とはやたら仲がいい。地獄…

togetter.com

そりゃあ、佐山だって真っ白な男じゃありません。やはり精神的なものを鍛え、国体を復活させる方が先ですよね。しかし我々は、大恩ある佐山本人のことなら少々苦い毒でもゴクリと引き受けるんですよ。トチ狂った右翼的な演説だって、佐山が言うなら黙って聞いてあげます。佐山と一緒に渋谷のチーマー殺すのだってやぶさかではありません(チーマーってまだいるの?)。猪木に関しても同様です。しかし自分の少年時代の憧れを、よりにもよって新間寿に汚されるってのは… それは、オイちょっと、やだな、勘弁しろよ、と小声ながら呟いておきたいのであります。こんなこと書いたって、新間はビクともしないんだろうがなあ…

さらばアントニオ猪木

さらばアントニオ猪木

  • 作者:新間 寿
  • 発売日: 1993/10/01
  • メディア: 単行本

*1:新間「じゃあここでハッキリ言いますよ。女性レポーターの諸君は耳を塞いで下さい。そして放送禁止用語を私がいま言います。テレビは音声を消して下さい。いいですか」(略)「アントニオ猪木PKO。Pは何だと思います? P、パンパン。K、コイコイ。O、オ・マンチョヤロウ。オ・マンチョヤロウ」