『八甲田山』で死にゆく我々日本人

日本映画専門チャンネルで「八甲田山」。確か20年くらい前に、VHSで観たのが初見と思う。画質は悪く、顔の判別も難しかった。今回のは4Kデジタルリマスター版なので、凄まじくクレイジーな極寒のロケ撮影を堪能した。加山雄三とかいい役で出てたんだな、以前は気づかなかった。

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映画史に残るクレイジーロケ

兵隊がバタバタ死んでゆく映画の何が面白いのかと初見時に思った。2021年に再び観て思う、これは「日本人」をド真ん中で捉えた映画だったのだ。やはり何が面白いのかとは思うけど。 (★3)


戦前は知らず、戦後の日本人はなぜか日本人がバタバタと大量死する映画が好きだ。「二百三高地」と「八甲田山」はその典型と思うが、ともに大ヒットしている。みんな観たいのだ、日本人がバタバタ死ぬ映画を。「敗戦」が全国民共通の原体験となっているため、大量死が限りない共感を呼ぶのだろうと推測する。


史実は詳しく知らぬが映画によると、八甲田山の深刻な遭難事故はすべて三國連太郎に原因がある。さらに唯々諾々とバカな上官に従うしかない日本軍メンタリティが、事態の悪化を修正せず、悪化するに任せてしまう。間違っていることを知っていても、一度始めたプロジェクトは止められない。止まる気もない。そして死ぬ。死ぬ死ぬ。そればかりか負けること、死ぬことに陶酔する。これが日本人だよな。だってたとえばアメリカ映画で、アメリカ人がただバタバタ死んでゆくだけの映画がありますか。オレは知らない。しかし日本ではこれが大衆のハートを掴む娯楽映画になるのだ。


2021年3月現在、日本でコロナが蔓延してるのに日本人はオリンピックをやろうとしている。何人死のうがやろうとしている。これが我々の世代の、現在進行形の「八甲田山」だ。自然が相手なのに、一部の人間のクソしょうもない事情のため、状況お構いなしに強行しようとしている。この国は三國連太郎だらけだ。「八甲田山」は1902年の出来事を描いているが、それから119年経っても、原爆を落とされても、敗戦を経験してギブミーチョコレートやっても、原発事故を起こしても、日本人は全然変わってない。「八甲田山」が描いたのは自然の脅威ではない。日本人の弱く、愚かで、能力不足のみっともない姿だよな。オリンピック楽しみダナー。

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