やはり傑作だった! 「トロール・ハンター」


トロール・ハンター」は傑作の匂いがしたので是非観たかった映画だったが、公開当時はたいへん忙しくて観に行けなかった作品だ。ソフト化されたので早速観てみた。これはねえ、大傑作でしたよ! ただ、誰が観ても面白い映画ではないよ。もしかしたら、オレしか面白くない映画かもしれない。以下、CinemaScapeに投稿した感想。ネタバレですよ。

こんな映画が観たかった。傑作である。(★5)
ブレア・ウィッチ・プロジェクト」からの継承だろうが、学生映画とすることでフェイクドキュメンタリーとしてのハードルを下げている。北欧の妖精トロールではなく、トロールを狩るハンターに照準を合わせた脚本のアプローチ。トロール臭やフラッシュライト、武装車両などの作り込みの見事さ。手ブレ映像の背景に垣間見える、ノルウェーの陰鬱な大自然。様々な大きさ、多彩な姿形を持つトロールのデタラメな魅力。死んだカメラマンの後釜にプロを呼んだ途端、脚つきの画(三脚を使った安定した映像)に切り替わる技術的リアリティ。ナイトショット(暗視カメラ映像)のサジ加減も完璧だ。

細部の細部に至るまで「判ってらっしゃる」としか言いようのない作りこみだ。ありとあらゆる怪獣映画、「食人族」「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」などの優秀なフェイクドキュメンタリー、「クローバーフィールド」など近年の手ブレ特撮の潮流。この映画の作り手は、先人の達成した成果を本当によく研究している。しかしそれ以上に感動させられるのは、「トロール・ハンター」が自国の風土に根ざした作品、ノルウェーでこそ成立する映画に仕上がっていることだ。山と岩しかない荒野、曇天ばかりの陰鬱な天気、寒々しい風景。オレには想像できるのだ、陽光眩しいアメリカ西海岸製の楽しい楽しい娯楽映画に憧れながら、北欧の雪に埋もれて毎日毎日代わり映えのしない現実を生き、起死回生の一発逆転を狙いすました作り手のまっとうに抱いた野心が。

最後に登場する巨大なトロール。通常は、対象物を置いてトロールの巨大さを見せるのが定石である。怪獣が都市に現れるのは、東京タワーなど誰でも知ってるランドマークと同画面に収まることで、観客が怪獣の巨大さを実感できるからだ。しかし、ノルウェーのクソ田舎に東京タワーなんか建ってねえわけですよ。だからこそ巨大トロールは劇中で最も拓けた場所、何もないだだっ広いロケーションに登場する。それは衝撃的な映像だ。不自然にデカいトロールのために遠近感が狂ったようになるが、その感覚そのものを観客は体験する。これほどシュールな絵面をクライマックスに持ってくる映画も珍しい。しかし、これこそがノルウェー産怪獣映画「ならでは」の挑戦なのだ。こういう高い志を持つ特撮映画が、いつか再び日本でも作られることを望んでやまない。