「桜蘭高校ホスト部」(テレビアニメ)

アニオタ道のド真ん中でパワーホール全開のid:atoz氏に無理やり押しつけられた第一話と、その後自分の意志で観た数話。やれ感想書け書け、冒険でしょでしょとid:atoz氏の声がうるさいので感想を書きましょう。求められてるうちが花ですからな。
いやこれが意外やなかなか面白いアニメだった。ムチャクチャな状況設定のバカげた絵空事アニメなのだが、そのバカ話を前提とした上で相当巧妙に作られている。このアニメの作り手はクレバーだ。
いくらバカ話でも流石に呑めんようなひどい部分は、ギャグに紛らわすなり自虐ツッコミを入れるなりして工夫している。つまり、マーここはこの工夫、このひとネタに免じて、この異常極まりない展開をひとつ呑んでやっておくんなさいと言っているわけで、そう低姿勢で言われればボクチャンチンも鬼じゃなし、まあまあそこまで言うならばここは譲ってあげましょう、となるのが人情である。
最低限の言い訳の上に繰り広げられるのは、ホスト部でホストをやる羽目になった美少女(なぜだ)と硬軟とりそろえたイケメソホスト部員らのアーラ素敵、ホストごっこでドンファン気取ったオレ様ちゃんも男装の君の前ではひとりのただの男になっちゃうのサー、オンナオンナした凡百の女生徒よりも性差に無頓着な真綾タソの素っ気なさにホスト一同ファイブノックダウンでTKOなのサーという内容。
基本的には女性の視聴者を気持ちよくするアニメだ。ホスト部の面々をおもしろカッコいい愉快な男の子として描いて都合のよすぎる逆ハーレム状態を作り出し、一方で主人公の美少女を性差に無頓着で恋愛に興味のない淡白な(淡白すぎる!)人格に設定することで、女性視聴者の反感を一切買わない鉄壁の布陣を敷いている。さらにその淡白すぎる美少女にホスト一同がメロメロになり、彼女の前ではホストの営業フェイスを保てず冷静でいられないボクチンなのサーという描写を何度も何度も描く。そりゃ女性からすれば、ホストが自分だけには営業抜きの素の顔を見せてくれたらきっと嬉しいもんなんだろう。しかしここまでは、よくあるハーレムアニメの男女を入れ替えただけの一回ひねりの話である。
このアニメがもう一歩クレバーなのは、男の視聴者から見ても主人公の淡白少女がごっつい魅力的なように抜かりなく描いている点だ。つまり腐女子視聴者は勿論、劇中のイケメソホストどもの対極にある我々のようなスネ毛ボーボーのパットン大戦車軍団でさえ、彼女を前にした時にはホスト連中と同じくアアアアーなんとマーこの無垢なる娘っこはカワイイのうー愛らしいのうーとゴロゴロ転がらざるをえないのである。そうさせるための描写には、一切手を抜いていない。そのうえで彼女が彼らを変え、彼らが彼女を変えていく心の交流の過程を丁寧に描くのであれば、これはきょうびのアニメ不感症であるオレ様ちゃんといえどもなるほどなるほどナルホ堂と感心できるのであった。
ここにおいてこのアニメ、男性女性の両性に受け入れられる可能性を持つ間口の広い商品となり得た。これまでバカのようにさんざん作られてきたハーレムアニメ、女神さまが空から降ってきたりパソコン拾ったら美少女だったりといったウンコアニメが例外なく落っこちてきた多くの穴ぼこの一部を巧妙に回避している。いや少なくとも、回避せんとする意思があるのは評価できる。
まあそう評価したうえでも結局これはオレにとってさほど重要な作品ではなく、例えば今まさに「涼宮ハルヒの憂鬱」で起こっているリアルタイム天龍革命、レッスルアンドロマンス或いは寿司処しま田に比べればこちらはせいぜいコンニャクドラゴンの飛龍革命か城めぐり、しょせんはジュニアヘビーだろ! といったところである。そしてクレバーであることは充分認めつつも、オレ自身が視聴者として作り手のクレバーさにあんまり重きを置いておらず、まして坂本真綾先生にも何ら思い入れがないために、今後継続して視聴するとはお約束しかねますよ、という結論に至るのであった。どうだキモイかビビッたか。

桜蘭高校ホスト部 Vol.1 [DVD]

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