わたくしの中の「マイマイ新子」的千年感覚

オレの田舎は四国の香川県高松市だ。高松で暗黒の思春期を過ごして東京に亡命し早幾年、もう東京暮らしの方が長くなってしまった。

ガキの頃、小学校の遠足で行った先にはバカでかい溜池があった。雨の少ない香川には溜池がやたらめったら多い。それこそ千年以上の昔、水不足に苦しんだ人々が雨水よ溜まれとばかりに大掛かりな土木工事を行なって作ったものだ。その頃は大林組清水建設もなかったのに。

その時、引率の先生は「この池はお大師さんが作ったんや」*1と言っていた。「おだいしさんって誰や」と聞くと、空海だという。クーカイってアレですか、あの有名なお坊さんの空海ですか。そうや空海や。お大師さんや。

讃岐出身の歴史的有名人といえば菊池寛だの平賀源内だのと少なくないが、中でも最高のビッグネームといえばこれは一も二もなく空海である。その空海が、大昔に「ここ」に立ち、土木工事を指揮していたのだ。そう考えるのは神話の世界と日常が地続きになったような、なんとなく奇妙で、ちょっとSFな気分だった。

余談になるが話は飛んで2005年、仕事で調べものをしていたオレは不意に空海の名を目にした。大昔のイエズス会の宣教師が書き綴った報告書に空海の名が記されていたのだ。この発見は id:Dersu:20051124 に書いた。キリスト教の宣教師から異教の悪魔と呼ばれる空海は凄まじいラスボス的存在感を示しており、なんだか嬉しくなったのを覚えている。要するに極東に飛ばされた一介の宣教師が異教のスーパースター、ザ・レジェンドであるところの空海さんの凄すぎる伝説を聞いて、ビビってたじろいだのである。これはやっぱり気持ちええのであります。

そんなわけで「マイマイ新子と千年の魔法」に登場する少女が千年前に想いを馳せるのは、オレには極めて自然なことに思えた。日常生活の中でこそ普段は忘れてるけど、こういう感覚はある、こういう想像をめぐらせたことが自分にも確かにあった。まーだからって美少女の転校生と秘密の感覚を共有して仲良くなっちゃうような輝かしい栄光とはまったく無縁なガキではあったが、感覚だけは確かにあったのだ。「マイマイ新子」を観た観客の中に、そう感じた人も案外多いのかもしれない。それはとりたてて古い歴史のある土地柄に生まれてなくても、誰でも記憶を探ればけっこう簡単に発見できることではないだろうか。

マイマイ新子と千年の魔法 [DVD]

マイマイ新子と千年の魔法 [DVD]

*1:実際にはゼロから作ったのではなく改修工事を手がけたらしい。その溜池は満濃池といい、日本最大の農業用溜池だ