「カラフル」感想

待ちかねた原恵一監督の新作「カラフル」を、公開初日に観てきた。わたくし向きとは言いがたいものの、相当いい映画でしたよ。以下、CinemaScapeに書いたコメントを転載。ネタバレ有りです。

ウヒヒを知らぬ君へ (★4)
自殺を試みた中学生に、いったい大人は何が言えるのだろうか。「いのちをだいじに」くらいの言葉なら、ドラクエにだって出てくる。通り一遍の説教はしたくない。それは嘘だからだ。

オレならこう言うだろう、そう急いで死ぬもんじゃないよ。春にはチャンピオンカーニバルがあり、夏にはG1クライマックスがあり、冬には最強タッグがあるよ。プロレスでも観に行こうぜ、そこにはいろんな人生が転がってるよ。

ふざけているわけではなく、自分の中から嘘のない言葉を探せばこのようなものになる。同時にこれは自殺未遂の中学生には実感の伴わぬ、遠い言葉に聞こえるだろうなと思う。わたくしももうすぐ四十郎、かつては自分のものとして知っていた彼の痛みはもはや遠い記憶となって滲んでいる。

ウヒヒとは、弱い人間が自らを救うひとつのアティテュード(態度)である。視点を半歩ズラし、世界のすべてをネタにする生きかたのことだ。ウヒヒは悲劇を喜劇に変える。オカンの不倫は確かにヘビーだが、それをネタに自虐トークのひとつもできりゃあ小林くんはすべらない。ウヒヒとは、高潔であることを捨てる代償として手に入れる人生の盾だ。

しかし、誰もがウヒヒを身につけられるわけではない。いまだウヒヒを知らぬ若きグラスジョー、ナイーブなボクちゃんに向けて、大人が大人としてかけるべき言葉の選択は、実に難しい問題だと思う。

「カラフル」を観た。一見いかにもよくありそうな筋立て、平凡で華のないキャラクター、物語に大きなサプライズはなく、人物の語る言葉のほとんどは有り体に言って陳腐なものだ。

しかし、ここに在る痛みは本物であるとオレには思われた。主人公たる小林真くんのみならず、ブサイク女、ニコタマ援交少女、フラメンコオカン、ボンクラ父さん、皆が抱えるそれぞれの痛みが、このうえなく真摯に描かれている。これハッキリ言えば、ウヒヒを身にまとったおっさんであるところのオレ様ちゃん向けの映画では全然ない。だがウヒヒを知らぬ中学生にとって、これほど信頼できる映画もそうはあるまいと思えた。この映画で原恵一は彼らと同じ痛みを抱き描いたうえで、「たかだか数十年の人生」を生きるエネルギーを示してみせた。ウヒヒのおっさんには逆立ちしたってマネのできない、誠実で飾らぬアティテュード。「カラフル」の美しさは、彼らにきっと届くだろう。ウヒヒのおっさんも、陰ながらうれしく思いますよ。

さて極めてさりげなく描かれているが、主人公が人生の中に小さなウヒヒを発見する場面があってこっそり感動したので書いておきたい。好漢早乙女くんが「オレの成績、クラスの32人中31位だよ」と言い、主人公が「オレ32位だよ」と言い返す場面だ。2人は笑いあって、早乙女くんは「最強だな」とまとめる。その瞬間、根深い劣等感や疎外感が裏返しになる。よくぞこんな美しい瞬間を切りとってくれたものだ。コンビニの安っぽいフライドチキンと肉まんが、なぜか死ぬほどうまいと感じる。世界は、こんなふうにできている。

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