殺人美学

仕事中にカブで急ぐ道すがら、虎ノ門あたりで渋滞に巻き込まれる。車の間をすり抜けることもできぬ、ひどい渋滞である。これはいったい何事だ、大事故でもあったのかと思いきや、真相はどこかのデモ隊がぞろぞろ行列で歩いていたための渋滞であった。デモ隊は長蛇の列を作り、誰に対して言ってるのか知らんが「アメリカはイラクから出て行け」などと叫びながらのろのろのろのろ歩いている。その周りには警官が何人もまとわりついて、驚くべきことに車の通行を止めてデモ隊を通している。連中は虎ノ門の交差点をぞろぞろのろのろぞろぞろのろのろ歩いていく。さんざん待たされた挙句、オレはそんな光景を目の当たりにしたのだ。もうねえ激怒ですよ。交差点で怒鳴り散らしましたよ。お前らアホかと。歩くな走れと。消えてなくなりやがれと。殺すぞと。またぐなよと。何がやりたいんだコラと。我ながら、デモ隊もびびり警官もたじろぐ剣幕であった。他の車のドライバーもびっくりしてたな。
オレはデモそれ自体には何もない。連中が叫ぶ内容も、とりあえず関係ない。ただ、オレの仕事を関係のないところから邪魔するやつは許せん。オレはフレッド・ブラッシーの名台詞「リングの上でオレの邪魔をする奴は噛み殺してやる。たとえそれが、オレのお袋でもな」を信奉する者だ。
だいたいあんなデモってあるか。サツに交通整理させて練り歩くなんて、どんだけ御目出度いデモなんだ。サツはデモ隊を警棒でガンガン殴るべきだ。女子供でも容赦なく殴るんだ! 当然、デモ隊は警官隊に石とか火炎ビンとか投げるべきだ。サツは問答無用で殴るもんであり、デモ隊は問答無用で抵抗するもんだ。それが正しいデモの図ってもんだ。違いますか。ああそうですか。
とにかくあのデモ隊はただヒマそうな連中にしか見えなかった。一切本気には見えなかった。仕事の邪魔をされたことは当然だが、オレの怒りの根底にはお前らアメリカがイラクにいようがいまいが本当はどうでもいいんだろ、デモごっこがしたいだけなんだろという思いがあったのは否定できぬ。しかしそれにしても、今日は久しぶりに怒ったなあ。