
アカデミー賞で最優秀長編アニメーション賞を獲得した「Flow」を観てきましたよ。観た人だいたい褒めてる。評判いいんですよ。今だけだぜ。10年後に「Flow」の話をしてるやつなんかいねえよ。以下感想。ネタバレとかどうでもええやろ。
ブチギレたところが前半に2箇所あって、すっかり心が離れた。以後は死んだ心で画面を眺めていただけだった。 (★2)
この監督は上田文人(ゲーム)作品の模倣が目に余る前作「Away」も酷く気に喰わなかった。
まずわたくしの逆鱗に触れたのは、水位上昇に伴って大仏猫によじのぼった黒猫の目の前で、変なクジラが「レッド・オクトーバーを追え!」の米海軍原潜「ダラス」よろしくザッパーンやる場面。当然クジラによる大波が黒猫を襲う! と思いきや、チャプチャプしてるだけで何もない。こんなもん家猫がテレビでクジラの映像見てるのと変わらないのである。信じ難いほどの実感の欠落だ。つまりこの作品はこう言っておるのだ、大波が来るも来ないもここで起こることはすべて監督のサジ加減ひとつ、ゴキゲン次第であると。お前らは出されたもんを黙って飲みこめばいいのだと。
そんなこと言ったってアニメはそういうもんだろうという御意見もあろう。そう思うやつはそう思って生きていけばいいんだが、オレは絶対にそうは思わない。これは作り手の世界に対するアティテュード(態度)の問題なのである。要するにこいつ世界をナメてんだよ。
次にブチギレたのがヘビクイワシの喧嘩の場面だ。2羽が対峙して睨みあうのだが、カメラが鳥の足もとから顔まで体スレスレをクレーンアップし、鳥はその間じっとしている。この映画は全編この調子でハイオッケー、一丁あがりとやってるのだが、この場面が最もあからさまだ。カメラワーク(コンテ)に動物(キャラクター)への「敬意」がないのである。
カメラワークに敬意ってなんだ、気でも狂ったのかと思われても一向に構わねえ。敬意の有無は歴然と存在する。謙虚さと言い換えてもいい。判りやすいサンプルが、「キタキツネ物語」(1978)と「子猫物語」(1986)の撮影の違いである。キタキツネ物語には敬意があるが、子猫物語にはまったくない。動物の自然なふるまいを尊重するか、手を突っこんで思い通りに何でもやらせるかだ。
「Flow」のカメラは終始、主張しすぎている。作り手の意図まるだしの恣意的なパンを何度も何度もやる。右向いて、左に振って、また右に振る。この人間のいない世界でカメラを振ってるのは誰なのか。そりゃあフィクションなんだから、必要ならパンしたっていい。しかしそれにしてもあからさますぎるし、押しつけがましすぎる。恣意的なカメラワークだなと観客に意識させたら失敗なんだ。鳥の場面は自由自在すぎる。実写なら、あんな密着してカメラクレーンアップされてじっとしてる鳥はいない。カメラマンが近づくだけで飛んで逃げるだろう。アニメだから、CGだから可能なことだ。では可能なことは何でもやっていいのか。いいわけがないのである。
アニメだからCGだから何でもできるんだい、何やったっていいんだいという醜い態度は全編を覆っている。南米のカピバラとアフリカのヘビクイワシが、同じ場所にいる。ちなみにカピバラは、監督が来日した際に伊豆シャボテン動物公園を訪ねて取材したそうですよ*1。近場で済ますなや。アマゾン行けや。
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