おもしろガハハと高潔倫理の狭間「ジャンゴ 繋がれざる者」

みんな大好きジャンゴを観てきました。面白いか面白くないかといえばこれは滅法面白くて大満足だったのです。以下の感想はこの映画に感じたちょっとした不満、喉に引っかかった魚の骨のようなものと思ってください。ネタバレ有りますのでご注意を。

様々な思惑が交錯し、緊迫した状況が移ろいゆく危うさを描いて秀逸。前作同様、全盛期の福本伸行マンガの如き面白さ。それでも不満はある。(★4)
わたくしの感じた不満とは要するに、実に面白く作りこまれた登場人物の造形に不意に表出する倫理の高潔さ、その違和感に戸惑ってしまう点だ。挑発され、怒りを抑えきれずにディカプリオを撃つ歯医者。犬に食われた奴隷を看過したエピソードがその動機として回想されるのだが、彼は今の今までああいうことに動じない男としての魅力を発散して我々を虜にしてきたのではなかったか。ディカプリオは、彼が命を賭してでも断じて絶つべき巨悪だったのだろうか。

彼は「すまん、我慢できなかった」と言うんだけど、我慢できなかったのはタランティーノ道徳心であって、あのゴキゲンな歯医者さんではあるまいと思えてならなかった。当然、この高潔なる倫理をもってしてタラを褒めそやす手もあるんだろうが、一方でタラはジャンル映画の常としてザコの悪党を「雑」に「爽快」に「無造作」に、ギャグの一環としてもバンバン殺してきたわけだ。つまりあれは、ジャンル映画への愛をタラの高潔なる倫理が上回った瞬間、タラの人間宣言のようにオレには見えたのだ。わたくし個人的に、この選択を褒める気にはなれないのです。いっそバレちゃあしょうがねえ、1万2000ドルも女奴隷も貴様らのお命も全部頂戴するぜ、片っ端から全員ブッ殺してやるぜ、契約も法律もウソも方便なんだぜクソぶっかけてやるぜ、実力をもってこれを排除せよ! ホント南部は地獄だぜフゥハハー、という展開のほうが好みですねえ… タランティーノさんは、本当に誠実で真面目な人なんだと思う。でもわたくしがいつも彼に期待してしまうのは、観たら不良になっちゃうようないけない映画、観たらバカになっちゃうような頭の悪いわるうい映画なんだよなあ。ほとんど言いがかりみたいな物言いで、申し訳ないとは思ってるんですが。


ディカプリオの背後には新生UWFロゴマークにも使われたギリシャ彫刻「レスラーたち」の複製が!