大晦日「K-1 PREMIUM 2006 Dynamite!!」雑感

メインイベント、秋山成勲vs桜庭和志
この試合で何が起こったのか、id:tragedyさんがまとめてくださっている。

虚構組曲 - 秋山成勲vs桜庭和志戦、疑惑の裁定について

今となっては真相は藪の中で、秋山のヌルヌルは「限りなく黒に近いグレーであっても、黒そのものではない」というところに世間的には落ち着くのであろう。疑わしきはなんとやらである。

まあ、世間がどうであろうとオレはどうでもいい。今回の大晦日で再確認したことだが、オレは格闘技を観ていながらも格闘技を観ているのではないということだ。オレは格闘技を、プロレスとして観ている。つまり人間を観ているのだ。およそ人間を観る以上の娯楽はこの世にはないと思っているオレにとって、世間的判定や格闘技的判定、競技的判定がどうであろうとどうでもいいのである。

なぜなら、オレの真実はオレの中にあるからだ。オレが真剣に観てきて知っている桜庭和志という人間、オレが真剣に観てきて知っている秋山成勲という人間、オレが真剣に観た今回の試合、こんなに簡単な方程式はないね。秋山は黒も黒、真っ黒ですよ。

秋山が真っ黒であるということを知った上でこの試合をもう一度観てみると、これは凄いプロレスである。ヌルヌルを知った桜庭の心の動きも面白いが、ヌルヌルを知られた秋山の心の動きがもう異常に面白すぎるのである。

勿論この試合は非常に危険な試合だった。格闘技興行の構造的問題、公正の確保などは真面目な人に是非考えてもらい解決していただきたい問題だ。ドサクサで選手が壊れるのは観たくない、それもオレの本心だ。しかしですね、もう試合は終わってしまったことだし、プオタであるボクチャンがビデオを巻き戻してこの試合を最高の娯楽としてこっそり面白がることを、神様どうか許してほしい。

主役は秋山成勲である。この試合は、彼が危機に陥りつつも完全犯罪を遂行する実にスリリングな物語だ。

桜庭は下柳とタイガーマスクの覆面をかぶって入場。正直言ってオレはPRIDE後期以降の桜庭の微妙にさぶいおもしろ入場はちょっとしんどいのだけど、桜庭が自分のキャラクターに沿って提供するこの小さな娯楽、プロとしてまっとうであると思っている。

秋山は清原と140人の子供たちを従えて入場。秋山は再三「柔道最高!」という最高すぎる幼稚なフレーズをシャウトしてきた男で、この入場も秋山の柔道という概念への依存がもろに見え、プロとしての未成熟を感じさせるものだった。柔道と清原という外部の威光を借りて、どうにか秋山というキャラクターを成立させているように見えた。まあ、このへんの好みは人それぞれであろう。

秋山は試合で柔道着を着るのか、着ないのか。事前の報道では「当日に決めます」などと言って煙に巻いていた。柔道着のまま入場した秋山はレフェリーのボディチェックを受け、リングアナのコールを受け(桜庭はこの時点でTシャツを脱ぎ臨戦態勢)、ホイス・グレイシーから花束を受け取り、リング中央で桜庭と向かい合いレフェリーのルール説明を聞く。まだ柔道着は着たままだ。説明が終わりコーナーに戻るよう指示された秋山は、今まさにゴングが鳴ろうとするときにやおら柔道着を脱ぎだすのだ。ここに「秋山が柔道着を脱ぐのを会場にいる全員が待つ」時間が発生する。そしてゴングが鳴る。

秋山は裸の状態でボディチェックを受けることなく試合開始のゴングを鳴らすことに成功したわけで、目指す完全犯罪は上々の滑り出しを見せた。「なぜゴング直前まで脱がなかったのか」という疑問には、「桜庭に心の準備をさせたくなかった」という答えが用意できる。これは少々セコいものの、格闘家の兵法の範囲をはみ出さない見事な説明だ。

さてビデオを少し早送りして、1R残り6分20秒前後、桜庭の片足タックルを軽々とすりぬけたあたり。異常を察知した桜庭が、タイムを要求する仕草を見せる。バレた! そしてここで秋山に、「殺し」のスイッチが入る。

ここまでの秋山は、カウンター狙いで「待ち」の打撃戦を展開してきた。しかしこの瞬間、「桜庭を黙らせないとヤバい」と感じた秋山の潜在能力が大爆発。距離をとろうとする桜庭を容赦なく追い詰め、殺しのパンチを叩き込む。顔つきも一変している。鮮やかなバックハンドブローまで見せる。桜庭にはタイム要求が無視されたとまどいがあり、もう一度なんとか秋山の足に触って確認しようともしており防戦一方、この時点でこれ尋常の試合ではなくなっている。

秋山は桜庭を失神させたかったであろうが、桜庭は耐えた。倒した桜庭にパウンドを落としながら、秋山はチラッとレフェリーを見る。少なくとも試合を終わらせるには十分すぎる状態だ。ここの秋山は「止めないのか」「早く止めてくれ」というふうに見える。桜庭は何か喋っている。本来試合を止める権限を持つレフェリーは、なぜかリングサイドの一方を伺い続けている。唐突にゴングが鳴り、それを聞いたレフェリーが試合を止める。普通逆だろ常識的に考えて…

秋山はすぐに桜庭から離れ、自分のコーナーに戻って背を向ける。ガッツポーズも何もない。場内は騒然としている。桜庭は「すっごいすべる! すべる」。子供みたいだ。レフェリーは秋山に近づき、背中をいいかげんに撫でてチェックする。そのとき秋山がレフェリーに向けた顔が、素晴らしすぎる衝撃映像だった。こんな秋山の顔を、オレははじめて見た。

これは生々しい犯罪者の顔、殺人者の顔である。いくらなんでも面白すぎるだろこの顔は。
これは悪事をなして露見しそうになったとき、恫喝することで切り抜けてきた男の顔だ。その生きざまが見える顔だ。そしてプロとして物足りなかった秋山成勲という人間を、オレは今はじめて理解できたような気がした。秋山のキャラがついに立った瞬間である。「アルプスの少女ハイジ」よろしく「立った立った、秋山のキャラが立った!」とヤケクソ気味で飛び跳ねるしかない。

勝ち名乗りを受けた秋山はセコンドに柔道着を要求し(このジェスチャーも最高)、周りを見回しながらそそくさと着こんだ後にようやく安心したような笑顔を見せた。そしてマイクで、柔道を習う子供たちのこと、清原のことを喋った。桜庭のことにまったく触れなかったのは不自然すぎるが、ここで改めて清原に観客の注意を向けさせて誤魔化す感性は悪くない。これ、ちょっとした「デスノート」の夜神月(ライト)だよ。秋山成勲は新世界の神になったんだよ!

他、大会の雑感。

永田兄弟の敬礼には大フィーバー

「カモーン!」と気合を入れるグラハムに、冷静にボディを叩き込んで距離をとるシュルトさん。

魔裟斗はゴミ。