「複眼の映像 私と黒澤明」

複眼の映像 私と黒澤明

複眼の映像 私と黒澤明

またぞろ黒澤関連本で、脚本家・橋本忍の黒澤組回顧録。黒澤映画特有の、共同脚本作業の変遷を語る。
橋本忍は、先に脚本家ひとり(だいたい橋本忍)が第1稿をあげ、それを叩き台として複数の脚本家で直してゆく「ライター先行型」をとっていた「七人の侍」までを黒澤映画最盛期としている。以後の「生きものの記録」からは集中討議を重ねたうえで最初から決定稿を書いていく「いきなり決定稿」型に変わる。著者いわくこの方法には構造的に欠陥があり、脚本の質の低下は避けられぬそうだ。「いきなり決定稿」の長所が大爆発したのは「用心棒」で、痛快娯楽作でこそ花開いたやり方だとしている。
晩年の黒澤明は徐々に初期のような単独脚本へシフトしてゆく。これすなわち長い年月のうちに職人の苦労が芸術家の苦悩へと移り変わっていった経過であって、橋本忍はそれを「夢」のゴッホのエピソードを観た時に実感したという。さらに橋本忍から観た「影武者」「乱」はひどい脚本だそうで、「影武者」はともかく「乱」をずいぶん好きなオレは心穏やかではなかった。
この本では執筆中の黒澤明小国英雄の姿が生き生きと描かれており、彼らの人間模様は滅法面白い。
奇しくもオレと同時期に「複眼の映像」を読まれた方が、この本の面白さを素晴らしく詳細な記事にしておられたのでご紹介。
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