セカイはザンコク

友人たちと「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN(前篇)」を初日に観に行ってきた。正直言って残念極まりない出来であって、以下に書くのは酷評とも罵倒とも判らぬ読み辛いだけのウンコ文章だ。ただひとつだけ個人的に同情してしまう要素はあって、それはオレが「進撃の巨人」実写版を観る直前の数日間をかけて「大魔神」「大魔神怒る」「大魔神逆襲」をBDで観ていた、という事実だ。無意識のうちに、オレのハードルはマックスまで上がっていた。いったい、「大魔神逆襲」ほどの傑作を観た直後に観て「これは面白い! よく頑張った! 感動した!」と心から思える映画など、どれほどあるというのか。あんまりないのではないか、とオレは思うのである。

それにしても、この映画はひどかった。観客の立場から言えば、原作改変がどうこうという以前の問題だ。たとえば、ミカサちゃんがエレンくんの前で軍服たくしあげてお腹見せて「セカイはザンコク」と無感情に言い放つ場面がある。お腹には大きな傷跡があるのだけど、その傷メイクのウソっぽさたるや驚愕ものだ。さっき青のポスカで書いたような傷跡なのである。だいたい、一度だって「セカイはザンコク」とか口に出して言ったらもう終わりだろ。それってオレをバカにしてるってことだ。「お前はバカだから判りやすく短い台詞で言ってやるよ、世界は残酷なんだよ、そういう雰囲気の映画として受け入れろよ」というわけだ。しかし、こんなゴミみたいなセリフがあるのになお最後まで映画を観てもらえてしかもヒットしてるんだから、世界はミカサちゃんが思う以上にかなり優しくできているのではあるまいか。ちなみに原作漫画でもミカサが似たようなことを言う場面があるがニュアンスはかなり違うし、漫画というフィクション純度の高い世界では違和感も少ない。しかし実写ミカサちゃんはドヤ顔で言うんだよなあ、ポスカみたいな傷見せて。ま、こういったお寒い場面はいっぱいある。ちなみにオレはあの腹にも文句があって、きれいな女優さんのお腹だからシュッとしてるんだけど、この映画のミカサとしてはバッキバキに腹筋割れてなきゃダメだろ。ケビン山崎ジム行って腹筋割ってこいと思う。もっと言えば、それ以前に新兵は全員丸坊主にしてこいと思うのだ。エレンくんとか前髪長すぎなんだよ。

思えば、序盤から落胆の大きい映画だった。戦後の闇市風オープンセットは狭っ苦しくて「街」感が全然ない。画面を観た印象では、セット全部片付けても野球もできないくらいの狭さなのだ。画面の中に「抜け」が見えないから閉鎖的な印象になるのだろう。一方、ミカサちゃんとアルミンくんはエレンくんを探して、えらい広々とした広大な土地を延々歩いてくる(なぜだ)。あれ、ここは壁の外なのかなと思ったら遠くに壁が見え、中だったことが明らかになる。この広大な土地は、農業地区ということらしい。ぼくが何を思ったかというと、なにこれ広々としてのどかでええとこやん。ヤギもいるやん。ヤギかわいいやん。ということだった。だから、壁の中を出て外に行きたいと言うエレンくんがバカに見える。これ、話法として失敗してませんか。闇市風の街こそ、どこまでも密集してゴミゴミと連なり、果てが見えないくらいの規模がなくてはならないのだ。農業地区なんてショボくていいのである。巨人登場前からこの調子。斯様な「語り間違い」も、この映画にはいっぱいあります。「人志松本のすべらない話」なら、二度と呼んでもらえないトークだ。

戦闘機だか不発弾だかの水着女イラストを見てアルミンくんが「海だ」とかいう意味不明な場面があるが、ありゃ何なんだよ。だいたいあんなペンキ絵を見て海とか思うかね。もしや後編で海に行ってガイラごっこでもするつもりかね。はい、こんな消化不良で意味不明の断片もたっぷりあります。

ただねえ、ミカサちゃんを寝取った「シキシマ」さんは、お寒いバカを突き抜けて、ぶっちぎりで面白かった。逆光背負って演舞キメキメ、達人現る!みたいな登場シーン。「ダイ・ハード2」のテロリスト大佐みたいで、なかなかいいぞ。と思いきや、エレンくんと瓦礫を歩く場面ではナチュラルによろける足腰の弱さ。重心高いんだな、現代っ子だから。ミカサちゃんとのリンゴの場面なんか、まずリンゴが登場すること自体がダサいのは置いといて、小川知子の胸元に手を差し込む谷村新司かと思ったよ。クライマックスでは何もせずに(お前いちばん強いんちゃうんか)ビルの上にひとり立ってKOKOU(孤高)キメながらエレンくんに説教。「翔べ!ガンダム」みたいなことを言った舌の根も乾かぬうちに「まーしかし運次第だよ」みたいなことも言うのでシキシマ哲学は難しすぎる。終いには「ゼーレが黙っちゃいませんぜ」みたいな思わせぶりなだけの内容ゼロの煽りをカマし、我々をウットリさせてくれます。ハッピーバースデイ、デビルマン! 近年の日本映画の短所すべてをひとりで背負い体現したかの如き大活躍だ。やっぱり後編も観に行こうかなあ、シキシマさんにまた会いたいからなあ。どうしようかなあ。

日本映画に携わる1000人以上のスタッフキャストが総力を結集して、諫山創ひとりに(編集者と合わせて2人か)大差で負けた。こんな惨状でも、不勉強なオレには樋口真嗣以外に日本の特撮を託せる神輿が他に思い当たらない。こんな神輿を来年ゴジラで担がなくてはならないのか。この事実が、世界の残酷さをオレにつきつける。また特技監督だけやってくれないかなあ。もう無理かなあ。それから、町山さんは映画評論家としては好きです。