「アイの歌声を聴かせて」 掃除ロボでいっぱいの未来

わたしは真悟」がベースだとか…

「アイの歌声を聴かせて」は予告編を観ても面白そうに思えず、絵柄もあんまり好みじゃなく、観るつもりのなかったアニメーション映画だ。しかし公開されるとやたら評判がよく、オレが信を置くweb上の映画好きの方々も褒めており、だんだん観る気になってきたので上映が終わる前に観てきた次第。ちなみにわたくしミュージカルは全然好きではなく、キャラクターが歌うアイドルアニメも好きではない(例外マクロス)。アシモフのロボットものは非常に好きだ。吉浦康裕監督の作品は観たことがなく、今回がはじめて。

「ブレックファスト・クラブ」展開による「桐島、部活やめるってよ」への返歌か。 (★3)


登場人物がかなり「桐島」モデルなのは気になった。二枚目とその彼女は東出昌大松岡茉優。AIオタクは神木隆之介。柔道部員はドラフト待ちキャプテン。表面上はイケてる東出が神木とキャプテンに感じる劣等感。これは模倣というよりは、「桐島」が学園映画のひとつのスタンダードとして参照・引用される古典に落ち着いたということだろう。当然それだけではなく、階層に分断されていた若者たちが腹を割って交流する「ブレックファスト・クラブ」展開になる。彼らを描く小さなドラマはよくできており、楽しく観られた。


盛大な不満があるのは大きなドラマの方だ。未来社会におけるテクノロジーのありかた、人間とAIの関係、ハイテク企業の社内政治など片っ端から全部気に入らない。


AIゴロゴロの未来世界でまだスマホなんか使ってんのか、まだ包丁でネギなんか切ってんのか。まあ人類は未来永劫ネギを切るのかもしれないが、ボカーそんな未来見たくないんだ。学校や企業にウジャウジャいる掃除ロボット。「とある魔法の」なんとやらでもよく見かけたアレだけど、もうそろそろやめませんかと強く思う。オレの知る限りアニメでの初出はたぶん1982年のテレビ版「超時空要塞マクロス」だぜ。ヒト型ロボットが田植えをしているのなら、ヒト型ロボットが掃除してたっていいのではないか。


AIとロボット、ソフトとハード(精神と肉体)をご都合で混同したまま話を進めるのは、AIを扱う映画の多くに共通する悪癖だ。この映画も同じでAIに驚く以前に、軽やかにステップを踏んでも転倒しない細身の少女ロボのハードウェアこそがまず驚異なんである。しかしアニメーターはともかく、この映画の脚本は肉体に興味を持ってないようだ。


少女ロボのAIは、トチ狂った受け答えをする。劇中でそれがギャグ、ポンコツ、ファニー、カワイイとして扱われる中で、ふと話の通じないヒトならぬ「怖さ」を感じさせる危うい瞬間があり、こういうのはもっと強調してほしかったと思う。「幸せって意味判ってるの?」に対して食い気味で「わかんない!」なんて、なかなかのホラー的会話だと思うのだ。


柔道部員サンダー杉山乱取りの相手を務めているロボット「三太夫」。「未来」「柔道」「ロボット」「三太夫」とくればおっさん諸兄にはお判りですね、はい、ゆでたまご先生の「SCRAP三太夫」からの引用です。ドリャー二本背負い! なかなか粋なことするわいと褒めたいところだが、ある程度リアリスティックな未来世界に出すにはちと厳しい。AI作るより柔道ロボ作る方が100倍難しいと思われるし、そもそも人間に危害を加えかねない行為を学校教育の中でロボットにやらせていいのか。どんな学校なんだよ校長連れてこいよ。アシモフ先生のロボット三原則第一条にも完全に抵触しており、まったくいただけない。また三太夫サンダー杉山相手に投げを寸止めしてたと思うんだけど、データ引き継いだ少女ロボは平気でバンバン投げてたな。STO、或いはカッキーカッター、はたまたEVILみたいな大外刈りを華麗にキメていたが、あれで相手が脳震盪起こしたら、後遺症残ったらどうすんだろう。ヒト型ロボット開発なんか一発で中止です。


まあオレが気に喰わぬ未来像はともかく物語としてより深刻な問題は、主人公の母親を追い込む悪そうな同僚という実に安易な悪と、デウス・エクス・マキナとして登場しすべてウヤムヤに解決したことにしてしまう企業の会長の存在だろう。若者たちの交流をそれなりに丁寧に描いていた前半とは全然違う、とんでもない雑さだ。脚本書くのいきなりめんどくさくなったんかと思ってびっくりしたよ。


作画はたいへん高水準で眼福だった。キャラクターの動きに伴う重心移動がはっきり感じられる場面も多く、上では悪く言ったけど柔道の場面もよかった。アニメ制作はJ.C.STAFFで、ここは「とある魔法の禁書目録」「とある科学の超電磁砲」を作ったスタジオだ。何だよ、あんたらどんだけ掃除ロボット好きなんだよ。

掃除ロボのアニメ初出は自分の知る限りマクロスなんだけど、もっと早いのがあったらコメント欄かはてなブックマークで教えていただけると助かります(何が)。観てないんだけど「鉄腕アトム」の、日本初のテレビアニメシリーズ1963年版か、2回目の1980年版あたりにはありそうだなと思っている。