淡くて薄くて不鮮明 「サマーゴースト」

知った瞬間からこれ絶対ヤバい物件ですよ欠陥住宅ですよとウヒウヒ騒いでいたアニメ「サマーゴースト」。我ながら性格悪いとは思いつつ、ufotableCINEMAで観てきました。ストーリーは各自調べてください。尺は40分で、鑑賞料金は1300円。観終わって、1300円はどう考えても高い、せいぜい600円やと思いました。

ラノベ絵師loundrawさんの商業初監督作。ハッキリ言って銭とれるレベルではないが… (★2)


なんせ淡いイメージばかりで薄いんである。ペラペラです。枚数も絶望的に少なく、動画のないカクカクのカットもあった。学生の卒業制作みたいな内容の薄いアニメで、40分でも長く感じた。


すでにイラストで大成功しているloundrawさんが自分の名前でアニメ制作を敢行、この意欲この情熱は正直言って褒めるしかない。新海先生の「ほしのこえ」からもうすぐ20年、アニメ作りたいやつは四の五の言わずに勝手に作る時代だ。若い身空で彼はやった。偉い。ただ観客としての評価は別の話だ。


これ、話を考えてイメージボードを描いてる段階ではすげー傑作になるような気がしたんだろうなと思うのだ。「死」とは静止した静寂の世界のイメージであり、静止画であるイラストはそれに相応しい表現手段だ。ラノベの挿絵であれば、それもいいだろう。しかるにアニメーションの本質は「動かないものに命を与えて動かす」魔法だ。それは生命を与えるゴールド・エクスペリエンス(黄金体験)であって、なんとなく死を意識してるんだよねーみたいな消極的な坊ちゃん嬢ちゃんを少ない枚数で40分見せられても、あんまり興味を惹かれないというのが正直な感想だ。企画がアニメに向いてないよな。


また、監督自身の消極性も大いに問題だと感じた。幽霊女の死体を探すくだりの、どういう根拠でどこを探しててそれがどう見えてて何がどうなってんのか監督本人も自信なさそうなあの感じ、居心地が悪くて実に苦痛だった。監督はこのアニメでは地理や固有名詞、こう思ったからこう行動するといった作劇上の根拠を何ひとつ出したくないんだよな。フワっとしたイメージだけが大切であって(それも大したイメージじゃない)、物語に踏み込みたがってない。突っ込んで描かれないキャラクターはペラペラにならざるを得ぬ。バスケ男の謎の病気は特定されない(昔の少女漫画の難病か?)。いじめられっ娘は御都合で形式的にいじめられてるだけで切実さには程遠い(「聲の形」とか観たか?)。幽霊少女も消極的で、自分を殺した犯人を放置プレイ(この世の治安が悪くなるやろ)。サマーなのに彼らは汗ひとつかかず、夏らしさを描く気が全然ない(「異人たちとの夏」とか… まあいいや)。そして監督の分身であろう絵が好きな主人公が描く幽霊少女の絵は、目を閉じている。この一枚絵には監督の人間観、他者と泥臭くぶつかりあって傷つくことを避けたい、快適にひとりで生きていきたいという人間性がよく出てるなあと感じる。ゴメンちょっと言いすぎた。まーでもきっと大丈夫です。今をときめく新海先生だって最初はかなりアレだったですよ。消極性だっていつか作家の個性になるかもしれません。まだ処女作ですよ。こっからですよ全然イケますよ。明るい未来は前途洋々ですよ…


「サマーゴースト」は、未熟さ未完成っぽさが魅力と言えなくもない。フワフワした映画が好きな方は観ればいいと思います。ただこれに比べると先日文句だらけの感想を書いたアニメ「アイの歌声を聴かせて」、あれは実力あるプロがテーマを練ってサービス山盛り、気力も充実でバシッと作った立派な娯楽映画だったんだなー、なかなかえらいもんやなー、と思い直した。好みはさておき、プロが作るものはちゃんと味が濃い。