「ベネデッタ」 史上最高のプロレス映画

おはよう諸君。バーホーベン先生の新作が少し遅れて高松で公開されたので観てきたよ。これ、正式に18禁映画なんだなあ。オレは全然、子どもに観せてもいいと思うけどなあ(エロいことはエロい)。

網膜剥離の手術から日が浅く、右目にはまだガスが入っている(抜けてない)ので、映画を観るコンディションはあんまりよくない。まあ、そんなのお構いなしにバンバン観てるけどな。以下、ネタバレありの感想。観てない人は読むべからず。今年の暫定ベストです。

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坂口征二とアントニオ猪木(右)

凄い映画。バーホーベンはキリストさまの手に負えねえ凄玉。これが一周廻って人間讃歌なのが凄い。 (★5)


時に大仁田、時に猪木の如き仕掛けで世界を翻弄するベネデッタ。オレには彼女が理想のプロレスラーに見える。プロレスの芯に迫る映画だろう。ダーレン・アロノフスキーの「レスラー」(2008)が描いたのが1回ひねりのプロレスなら、これこそ3回ひねりのプロレスを描いた映画といえる。

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冗談抜きで聖痕は大仁田のノーロープ有刺鉄線電流爆破デスマッチだし、死と復活は第1回IWGP決勝の猪木ホーガン戦だ。バーホーベンは東スポ読んでるのか。


ベネデッタ 「オイ、オイ、この傷が、オイ、この傷がニセモノかああ。この聖痕がインチキかああ。オレはッ、この修道院を、絶対に、潰さん!」(マイク投げ捨てる)

民衆 「ベネデッタ! ベネデッタ!」(修道院潰れる)


ベネデッタが追い詰められると、仕掛けは雑にならざるを得ぬ。当初の強烈な思い込み(信仰)は揺らぎ、ただパフォーマーとしてなんとか苦しい帳尻を合わせるしかない。猪木で言えば海賊男みたいなもんだ。それでもベネデッタは一貫して、ロマンで現実を動かしフィクションで世界を変えることをやめようとはしない。これこそが人間の凄みなのである。ベネデッタはマリアさまより凄い。バーホーベンはキリストさまより凄い。


火刑に処されるその瞬間、ベネデッタは民衆の心を動かす。暴動が起こる(暴動が起こる映画は素晴らしい)。起死回生、ベネデッタは土俵際のうっちゃりをキメる(なぜここだけ相撲のたとえ)。逃げ延びた先で、愛人はベネデッタを問い詰める。ゲロを吐け、せめて私にだけは心を開けと詰め寄る。しかしベネデッタは魔法のタネを決してゲロらない。これは本当に、本当に立派なプロレスラーの姿だ。神様ゴッチの薫陶を受けたアントニオ猪木が、いつしか人間として人間のまま神様を超えてゆく姿だ。ベネデッタはリングへ戻ってゆく。映画はここで終わるが、愛人はこの後、会社のデスクに「人間不信」と書き置きを残してハワイに旅立ったという(坂口征二)。