我々と無関係じゃない 「聖地には蜘蛛が巣を張る」

アリ・アッバシ監督といえば世界最重要監督のひとりである。いやーそれほどじゃないでしょ、という人もそりゃいるだろうがオレのブログでオレが思ってることを断定して書くことに何のためらいがあろうか。世界最重要監督のひとりだとオレが言ったらそうなのである。前作「ボーダー 二つの世界」(2018)を観ればそれは明白だ。ちなみに長編デビュー作「マザーズ」(原題「Shelley」 2016)というのもあるらしい。近々観てみよう。

アリ・アッバシ監督の新作「聖地には蜘蛛が巣を張る」が公開されたので観てきた。文化が死に絶えた辺境の地・香川では上映がなかったので、松山まで行ってきた。今回はじめて行ったシネマサンシャイン衣山というシネコンにも、これが入ってるパルティ・フジ衣山という商業施設にも盛大な文句と呪詛があるがそれは割愛する。以下感想だが、観てない人には何のこっちゃ判らんだろう。暴力描写が苦手な人には勧めないが、そうでなければ観てほしい。こわい怖い映画である。

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殺しはペルシャ絨毯の上

前作でオレが寄せた信頼を裏切らぬ、流石のアリ・アッバシ監督。背筋も凍るとはこのこと。傑作。(★4)


娼婦を次々殺すといえば19世紀倫敦の切り裂きジャックであるが、まったく異なる文化圏である2001年のイランにおいて、実在した大量殺人者のサイード・ハナイは汚れた聖地を浄化する英雄として大衆に支持されてしまう。殺人鬼が言ってる世迷い言を、世間が肯定することの恐ろしさ。これを遠い国のイスラム教社会特有のミソジニー、と切り離して安心してはいられないのが現代の日本を生きるわたくしだ。我々の社会で近年ウナギのぼりの高まりを見せて止む気配のない憎悪、差別、蔑視、冷笑の渦。これが我々と無関係の話とは全然思えないのだ。我々と無関係のところで作られた筈の映画が人間のバグと社会の過ちを明確に描き、それは我々の問題でもあって、我々を問い糾し影響を与える。映画の力とはこれなのだ。

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