PRIDEミドル級GP ではなくヘビー級選手権試合

PRIDE GP 2005 FINAL ROUND [DVD]

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相変わらず煽りVは出色の出来。

入場時、ミルコがあまりにも「できあがっている」のが気になる。早くもちょっと目がウルウルしてるのだ。ついにベルトに手が届きかけるこの瞬間に感無量なのか? それとも亡父の墓石から始まった煽りVがあんまりよく出来てたので感動したのか? オレはPRIDE1での高田延彦の入場を思い出していた。あの日、涙目で歩いてきた高田はリングに上がる前に安生と抱き合い、そのシーンにプロレスファンはジュンときたものの、それをリングの上から見ていたヒクソンは「あれで勝ったと思った」などと至極冷ややかなことを後から言っていたものだ(ほっとけよ!)。ミルコは安生と抱き合いこそしなかったが、ミルコにとってこの試合があまりにも特別すぎるがために、ゴングの前に感情のピークを迎えてしまったように見えた。

ヒョードル、ちょっとコンビニに行ってチャンピオン立ち読みしてから帰る時のようなTシャツとジャージ姿で入場。例によって無表情なのだが、平常心でミルコ戦を迎えていることは判った。

試合が開始されると、ミルコがヒョードルの周りを回った。リング中央に立ち、追うヒョードル。勝負あったと思った。もちろん一発がある者同士、勝敗はどう転ぶかわからない。しかし「どちらが勝つか」ではなく「どちらが強いか」ならばもう答えは出たと思った。ヒョードルである。残酷だが、これが「格」である。

ヒョードルは強すぎた。ミルコは最高の仕事をしたと思うが、ヒョードルに届かなかった。この両者の明暗を分けたのは「対応能力」だと思った。キックやパンチに対する反応という単純なものではなく、状況に対して柔軟に対応する能力のことだ。

ミルコはヒョードルを倒すべく、練りに練った必殺の方法を持ってリングに上がった筈だが意外や通用しなかった。そしてPRIDEのチャンピオンシップの世界では、自分の作戦が通用しなかったときにこそその選手の真価が問われるのである。まあ、作戦が通用しなければ困った挙句にあっさり負けちゃうのが大多数の選手だ。何をやってもミルコに完封されて敗れ去ったマーク・コールマンの姿を思い出していただきたい。今回は、ミルコがその立場になったわけだ。ミルコは勝つ方法を見失い、どうすることもできなかった。想定していなかった状況に、その場で対応できなかったのだ。アドリブがきかなかったのだ。ヒョードルに敗れたノゲイラにも、同じことが言えるだろう。

ミルコは基礎問題をやらせたら世界一かもしれないが、応用問題を出されると考え込んでしまう。真面目な男なのである。一方、ヒョードルは応用問題の天才だった。応用問題をあっという間に解いて、更に難しい応用問題を相手に投げつける。オレたちは、そういう場面を何度も見てきた筈だ。藤田相手にふらついたとき、力道山ばりにいきなり怒ったヒョードルはぶんぶん拳を振り回した挙句に胴締めチョークを決めた。ランデルマンに真っ逆さまに投げられて上四方に入られたとき、どんな魔法かは知らんがヒョードルはアッサリひっくり返してみせた。この瞬間の対応能力、ミルコとヒョードルには大きな差があったと思えてならぬ。ヒョードルは闘いながらメチャメチャ考えている。

例えばラストラウンド、残り1分足らずの場面でブレークがかかった場面。あれはたぶん「島田ブレーク」または「DSEブレーク」であり、最後にひとつスタンドを入れてKOの機会を与えたいということなのだろうが、ガス欠で手も足も出ないミルコに対してヒョードルはなんとハイキックしたのである。もうわけのわからん動きなのだが、序盤だったら絶対に出さないハイキックをこの場面で出せるヒョードルは、刻一刻変化する状況をちゃんと把握しつつ、その時やるべきだと思われることをちゃんと実行しているのだ。つまり相当ひねった応用問題にも即答で正解を出せているわけで、あのデタラメなハイキックを受けたミルコはヒョードルの引き出しの底知れぬ深さを感じとって唖然としたのではないだろうか。

「柔よく剛を制す」と言うけれど、ヒョードルは柔にも剛にもどちらにもなれる選手だ。ラリアットみたいな豪腕パンチは剛そのものだが、例えば猪木アリ状態から絶妙のタイミングで身をくねらせてミルコの上のポジションに飛び込むあの動き、水揚げされたマグロのようなぶるんぶるんしたあのキモい動きは間違いなく柔である。どうでもいいが、あれやられる側は絶対イヤだよな。想像してみてほしい、寝ている自分の上にあんなハゲで無表情のロシア人がのしかかってきてぶるんぶるん身をくねらせて、何を考えてるか判らないタイミングで強烈なパンチを打ってくるのだ。ぶるんぶるん。がつんがつん。こんな迷惑な話はない。たぶん死にたくなるんじゃないかな。

そうだ、対応能力の話は先日ジョシュ・バーネットが言ってたことだ。
http://www.burningspirit.com/log/eid831.html

(聞き手)
あなただったらどんな戦略でヒョードル戦に臨みますか?
ヒョードルを倒す術を誰も持っていないように思えますが・・。

(ジョシュ)
ヒョードルに勝つには、彼のように試合の局面に応じて
攻め方を変えることが出来なければならない。
殆どの格闘家は一つの攻め方でしか闘えない。
打撃、レスリング、サブミッション個々は出来るが
局面に応じて攻め方を変える能力を有していない。
例えばノゲイラには打撃からテイクダウンに移行する技術がない。
そして寝てしまえば彼はそれ以上打撃は使わない。
彼は寝技の攻防ではリバーサルかサブミッションをのみを狙う。
ヒョードルのようにパウンドにはいかないだろうね。
ノゲイラはパンチで顔面をボコボコにされたとしても、
あくまでサブミッションを狙い続ける。
多くの格闘家がこんな感じだ。
これではヒョードルと対戦して
攻め方を状況に応じて変えていくのはかなり難しい。

ふーんそんなもんかな、と思っていたが、ミルコ対ヒョードルはまさしくその部分で明暗が分かれた試合だった。とにかくいいもん見せてもらいました。