この現象は誰にとっても語れることが多すぎ、全然整理できてないのだがとりあえず思うところをつらつらと。
世間では亀田叩きが大流行している。亀田興毅がなぜ日本中からこれほど叩かれるのか、プロレス者の諸兄にはすでに明白なことと思う。つまり彼が玄人、素人、ド素人のすべての層から嫌われるという離れ業をやってのけたからである。
まずド素人層は、亀田一家の体現する下品なDQN感、いかにも頭の悪そうな亀田父、亀田興毅の尊大な物言いなど、見たまんまのいわゆる「亀田テイスト」に生理的な嫌悪を覚え、ゆえに亀田が嫌いであるとする。ド素人とは言ったがバカにする意図はなく、つまりこれ世間一般の普通の人たちのことである。どうでもいいがオレのオトンなんかはここに入る。オヤジありがとう！（号泣）
次に素人であるが、この層は亀田一家の「演出」を嫌う。やれ特訓だ、やれ記者会見だ、やれ計量だ、およそ全局面において記事になりそうな小ネタを繰り出し続ける亀田一家にインチキの匂いを感じとっている。亀田興毅を「作られたスター」と見る人々で、まあこれも良識的な反応だ。
玄人層はボクシングファンである。彼らはボクシングを愛し、亀田「現象」を嫌う。亀田一家の演出意図は理解しておりある程度までは営業努力として認めるものの、対戦相手への侮辱やボクシングのイメージを落とす下卑た振る舞い、行き過ぎたパフォーマンスには警鐘を鳴らす。亀田一家によって、ジャンルとしてのボクシングの地位が下がるのを最も恐れる。亀田の試合はゴールデンで生中継なのに、日本人世界王者たちの試合が誰も見ない深夜の録画放送であることに、忸怩たる思いを抱えている。亀田がこんなに有名なのに、名城や長谷川のことを誰も知らないのがどうしても納得いかない。だから憎い、となる。
さてプオタとしてこの騒動を世間の隅っこから眺めている無責任な立場から言わせてもらえば、まーあなたがた亀田一家をどんだけ好きなんやと。これほど大多数の人が熱をこめて語らずにはいられなくなるボクサーが、かつていただろうか。亀田の次戦が今回に匹敵する視聴率をとることはまず間違いない。テレビ的には亀田興毅はキムタクの倍近い数字を持っているわけで、そんなタレントがどこにいるんだと。メチャ人気やんけと。
しょっぱい試合で王者になった途端に日本中から叩かれるようになった亀田興毅を見て、オレが思い出したのは筒井康隆の短編「イチゴの日」である。マスコミはスターを祭り上げてから落とすのが大好きだが、それは大衆の願望に盲目的に応えた結果にすぎない。盲目的なのは問題じゃろがいというツッコミは置いといて、そもそも持ち上げて落とすのが大好きなのは大衆であり世間なのだ。だから、このバッシングに意味はないとオレは思っている。こんなもん、サッチー騒動とかミッチー騒動とか、あれと同じようなもんですよ。この程度の風、ちょっとしたことでひっくり返る。id:Nakamyura:20060806#p1で書かれているように、そんなもんはマイクアピールのサジ加減ひとつでヒーローにもヒールにもなりうるのである。それが世間である。朝青龍が亀田興毅に「気にするな」と言えるのは、彼が世間の正体を知っているからだ。
さて亀田一家という類稀なDQN素材がボクシング界とメディアを巻き込んで始まったこの祭り、舵取りがいないまま暴走している感じがして実に面白いのだが、亀田一家のプランはプオタから見るとあまりにも稚拙で、もうちょいなんとかならなかったのかと思う。それはカマセ相手の連勝からしてそうで、結局圧勝し続けるなんてプランは長続きしないのである。ロード・ウォリアーズしかりゴーバーしかり、味気ないばかりだ。実力で圧勝しようがヤオで圧勝しようが関係ないのであって、圧勝すれば注目されるというプランがダメなのである。
亀田興毅の対戦相手へのコメントはすべて圧勝を前提としたもので、これはそう何回も聞いてられない上にバリエーションも少ない。相手が覚えづらい名前の外人ばかりなのもよくなかった。「弱い相手に圧勝を続けている」というイメージを拭いきれぬまま世界戦を行なったのは明らかなミスだ。そんなもん、ウソでもいいからちょいちょい苦戦して見せてりゃよかったんだよ。一度ぐらい負けたってよかったぐらいだ。
だから世界戦翌日の亀田興毅の「勝ったから次がある。負けたら次はないからな」というコメントは痛々しかった。勝ち続けなければこのゲームは破綻する、彼はそう思っているのだ。亀田興毅は19歳で、確かによく亀田興毅を演じてますよ。でもねえ、世間が亀田一家に注目したのって、亀田一家がおもしろDQNだったからですよ。たまに負けたって、平気でビッグマウス叩いてりゃよかったと思うけどなあ。山本”KID”徳郁なんかKOされても「気持ちイー！」と叫んで軽く我々の思惑を飛び越えたではないか。まあKIDと19歳の亀田君を比べたらかわいそうなんだけど。
さて今回の世界戦のミスの最たるものは、亀田興毅が発した最重要コメント「お母ちゃん生んでくれてありがとう」が、判定結果に騒然とする雰囲気の中でなんとなく流されてしまったことである。あれは今後絶対に重要になってくる伏線で、たぶん亀田が豪快なKOを決めたうえで言っていれば今年の流行語大賞も狙えたであろう印象的な台詞になる筈だったのだ。亀田兄弟と母の再会は、いずれ必ず来る祭りのクライマックスである。それは興毅の三階級制覇のときか、三兄弟揃い踏み興行のときか。たぶん視聴率80%は取りますよ。裏番組も豪快にKOするよ、亀田とKOはセットやからな。あと、亀田一家は大晦日興行なんか蹴って大毅君が紅白に出ればいいと思った。それならオレも紅白観るよ、KOと歌はセットやからな。
