金子賢に感じる居心地の悪さ

昨夜のTBS「格闘王」で、先日のHERO’Sの所×金子戦を両者の回想インタビューを入れつつ回顧していた。金子賢のことをなんだか普通にプロ格闘家扱いしているVだった。試合VTRの後、その翌日か翌々日に金子が練習を再開したとのことで、痛めたヒジを庇いつつトータルワークアウトでワークアウトする金子の姿が映しだされた。ちなみにトータルワークアウトとはケビン山崎氏が拠点のシアトルから逆輸入したジムで、カシワ食って体作ってパワーが出てスタミナもつくという夢のような肉体再生工場である。
専属トレーナー指導の下、傾斜のついたランニングマッシーン(ロッキー4でドラゴが走ってたやつ)を走る金子賢を眺めながら、オレはどうにも居心地の悪い気分を味わっていた。おいおい金子くん、ずいぶんいい環境でやらせてもらってんだなという反感を覚えると同時に、そんな金子への反感を格闘家でもなんでもないどころかちょっとしんどい運動さえろくにやってないオレがたらふくメシ食った後にタバコ吸ってゴロ寝しながらテレビを見て感じているという、このなんともしまらない構図がオレの居心地を悪くしているのであった。
2年間芸能界で仕事をせずに格闘技の練習ばかりしている金子賢が何らかのタニマチ的存在から援助を受けているのは明白で、そうでもなければ当たり前のようにトータルワークアウトで練習なんかすまい。走りたければそこいらの道路を走ればいいのである。橋の下にサンドバッグ吊るしてビッシビシ蹴っているキックの青空ジムだってあるのである。高田道場で練習するにしても金子が一般会員と同じく普通に月謝を払っているとは考えにくい。タニマチ援助か、金子賢であることのバリューによる優遇を受けているのであろう。前田日明の苛立ちの一因にこの「金子ボーナス」があったのは間違いない。そもそも視聴率への貢献を考えれば、恐ろしい話だが所よりいいギャラを貰ってた可能性だってあるのだ。
桜庭和志や小林魔裟斗の「金子くんは一生懸命やってる」という物言いは当然このボーナスを前提とした上でのことであり、金子賢のタレントパワーによる飛び級が反感を生むのはやはり当然のことだ。さらに金を払うファンの立場からすれば、たいして強くない金子なんか別に見たくない、となる。
しかしそれだけではオレが昨夜感じた居心地の悪さは説明しきれないのである。金子賢が生む気まずさは、彼が格闘技を「見る側」から「やる側」にほんの少しだけ越境し、その「少しだけ」っぷりを地上波放送で遺憾なく見せつけたからだと思うのである。以下、説明します。
いつもああだこうだと好き勝手言っている格闘技ファンは、それでも基本的には格闘家を人間として尊敬している。そもそも強いだけで格闘家は偉いし、それで食ってるプロともなればさらに偉い。つまりファン(というかオレ)の脳内にはこのような頭の悪い人間番付が存在するのだ。

  • プロ格闘家 (すごく偉い)
  • マチュア格闘家 (ちょっと偉い)
  • ファン (偉くない)

最も偉くないファン(オレ)が一番偉そうなことを言っているのは、逆説的だがやはり「見る側」だからである。木戸銭も払えばテレビCMも見ている「客」だからこそなんだかんだ言えるだけであって、じゃあ偉いのかといえば上記のように全然偉くはない。まあプロ格闘家が偉いなんてことは当たり前すぎて、わざわざ口に出して言うことはほとんどありません。
さて、ここに金子賢という概念が入ってくるとどうなるか。番付で言えば、金子賢はここに入ると思うのだ。

  • プロ格闘家 (すごく偉い)
  • マチュア格闘家 (ちょっと偉い)
  • 金子賢 (微妙)
  • ファン (偉くない)

金子賢はファンに毛が生えた程度の存在である。「金子賢である」というボーナスを元手にプロ格闘家を名乗っちゃう彼には、(本当のところは知らないが)ビル清掃員をしながら練習する根性も青空ジムでサンドバッグを蹴る根性もない。橋本のように鎖鎌特訓もしない。
じゃあ金子賢はオレより偉くないのかといえば、ズバリ言ってこれは偉いのである。何故ならばオレはどんだけ援助されてもクレイジーホースや世界の所さんなんかと闘いたくないからである。それ以前に痛いのもしんどいのも大嫌いで、きついきつい格闘技の練習なんかまったくもってイヤだからである。金子賢は援助とタレントパワーというアドバンテージの上ではあっても、オレよりしんどい思いをして頑張っている。オレはといえば、いくら先払いのボーナスを貰ったとしても頑張らないこと山の如しである。つまりオレより金子賢のほうが「男」なのである。
一方でアマチュアを飛び越えてプロの世界、しかも地上波のPRIDEやHERO’Sという檜舞台にいきなり上がった金子には、客として当然反感を覚える。軽蔑さえしてしまう。これも現実だ。
人間としては金子賢を尊敬・感心できても、客としては反感・軽蔑を感じざるを得ない。この相反する情動を同時に感じたからこそ、昨夜のオレは非常に居心地が悪かったのである。自分の中にパンクラス公式読本よろしく「矛」と「盾」が生まれたのである。
いやこれ、金子賢が自分と不釣合いなトップクラス相手に負けてるからまだいいですよ。たとえばアマ大会やパンクラスゲートに出て地味に1勝を挙げてごらんなさい、普通にいい話になってしまうではないか。頑張った金子賢が勝ち星を挙げました、そんないい話は聞きたくないのである。ペッペッ(サイテー)。
やはりプロというのは、圧倒的な存在でなくてはならないよ。金子賢のようなファンあがりの中途半端な生々しい頑張りを見てしまうと、頑張ってないファン(オレ)は実に居心地が悪いですよ。しかしまあ、そんなあれやこれやも含めた上で金子賢という一石がファン(オレ)の心に広げる波紋はなかなかに文学的で、アーこれもまさしくプロレスなんだなあ、と思う次第である。なんじゃつまらん、いつもの話だよ。