宇宙世紀の悶々 「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」

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悶々とするハサウェイ

ロボットアニメに平気で今村昌平を持ち込む男・富野由悠季原作の、たぶん忠実な映像化(原作未読)。宇宙世紀の童貞あるある。 (★4)


男どもを虜にするギギという娘のエロさはいわゆる「遊郭の囲われもの」のエロさであって不健全で不健康、それゆえに惹きつけられる類のものだ。ギギを見てオレが連想したのは都市伝説の「桃娘」だ。古代中国で桃だけを与えられ育てられた少女は、書記長クラスの偉いさんしか抱けない超高級娼婦。肢体は柔らかく肌からは桃の芳香がするという(モチ先生のエロマンガで読んだ)。メシが桃だけじゃー死ぬだろというツッコミはさておき、スケベ妄想のひとつのすぐれたパターンであろう。『閃光のハサウェイ』はギギを当代最高レベルの作画と演技で描き、エロいだけの小娘を唯一無二のファム・ファタール、「運命の女」であると言い張っている。オレが見たところ劇中に登場するいちばんいい女はメガネっ娘のミヘッシャさんなんだけど、劇中の男どもはギギのエロさに容易く狂ってしまう。


ギギを囲ってる(と言われる)のは「伯爵」と呼ばれる米寿を過ぎた爺ちゃんで(千家カゲロー先生のエロマンガかよ)、宇宙世紀105年になっても愛人に買い与えるのはやっぱり高級マンションなんだな。ギギは爺ちゃんに抱かれるために宇宙から地球へ降りてきて、ホンコンに落ち着いたら今度は爺ちゃんがギギを抱くために地球のどこかから飛んでくるという寸法だ。爺ちゃん長生きするよ。たぶん養命酒とか痛散湯とか飲んでるよ。


セックスしかしてこなかった無学な女がファーストクラスで政財界の老人に囲まれてオタサーの姫気分、iPadで世界の真実を知ってしまって叩き上げの軍人相手にイキった言動しちゃう。お前はひと山いくらのネトウヨ中学生か。学校に通え吉野家でバイトしろと説教したくもなるんだが、なにしろこの女は世徒ゆうき先生のエロマンガばりに作画がいいのでスケベチャンスをフイにしたくない男たちはチヤホヤするしかない。作画のよさは七難隠す。


閃光のハサウェイ』はギギを挟んで対峙する、自分の性欲に振り回される2人の男の物語だ(どこが閃光だ)。大人のようで大人げないケネス大佐も面白いが、特にハサウェイの(物理的には童貞じゃないだろうが)童貞マインド、童貞ムーブは面白すぎる。この映画はハサウェイがテロ組織リーダーという正体を隠しながら連邦の囲みをいかに脱出するかが全体の7割なんだが、その間ずーっとギギの前でカッコつけようとしてイマイチうまくいかない、という童貞の苦闘が並行して描かれる。ハサウェイの気分の上げ下げを見てるだけで面白い。


ハサウェイがシャトルであえて紙の本を読んでるなどの興味深い細部はあれど、映画はホテル到着以降、グッと面白くなる。魔性の女ギギに同部屋に誘われ、メッチャドキドキしてるくせにホテルのポーターの手前「仕方ないんやで? 彼女に誘われたからやで? あくまで自分は消極的な承諾なんやで?」と言わんばかりに同部屋を受け入れる。プールに浸すギギの素足をメッチャ見る。ハサウェイが見てるカットはなくても、ハサウェイ気分のコンテと作画が代弁してる。とりわけ胸を打たれたのは、ギギの着替え中に部屋に入ってしまうラッキースケベの場面だ。ギギはしずかちゃんよろしく「キャー、ハサウェイさんのエッチ!」とか言うんだけど、ここのハサウェイのリアクションが素晴らしい。お構いなしにグイグイ部屋に入って、「同棲でもないのに部屋で裸になる女は嫌いだ!」とか言って逆ギレするんですね。これは凄まじいリアリティです。ラッキースケベを仄かに期待して同部屋になったくせに、いざ妄想通りのラッキースケベが現実に起こると、童貞は今まででいちばん毅然とした態度になって逆ギレするわけです(桂正和先生の「I"s(アイズ)」かよ)。べべ別におヌードゲットしてラッキーなんて、ちっとも思ってないんだからね! ぼぼボカー決してそんな下心なんて全然ないんだからね!(脳内REC) ここにおいては慌ててドアを閉めて赤面とか、ニマニマして鼻の下を伸ばすとか、ルパン飛び込みするとか、襲いかかって蹴られて飛んでってキラーンと星になるとか、そういうマンガ的表現はお呼びじゃない。ギギが自室に引っ込んでもハサウェイは憤然として「散歩に行くが!?」と怒鳴って散歩に出かける。これだって別に黙って出て行けばいいだけの話なのを、わざわざ美しい作画で童貞しぐさを描いている。


あれこれあってホテルに戻り、なぜか暗い部屋でひとりルームサービスの飯を食う。ほー いいじゃないか こういうのでいいんだよ こういうので …などと孤独のグルメしていると、ギギが大佐と陽キャムーブで戻ってきて「ごはんオイシカッタワーわたし酔ッチャッター、あんた暗い部屋で何してんのウケルー」ってなもんだ。大佐は大佐で「ひと足お先にギギちゃんいただいちゃうゾー、ゴッチャン」などとお下劣極まりない。ち、地球連邦は腐敗している! 地球が保たん時が来ているのだ!


ハサウェイは予定した空襲の直前までグーグー寝てるせいでやや逃げ遅れ、しかし下心はあるのでギギと一緒に逃げ、うっかり死にそうな目に遭う。エレベーターの場面のエロさたるや筆舌に尽くしがたい。女連れで明後日の方向へ逃げるリーダーを見て、仲間のマッチョなお姉さんが「弱点が出てしまったな…」。ハサウェイ、性欲を見抜かれすぎや。自分のジャケットを羽織らせたギギを抱きしめ、ちょっとまさぐり、童貞は彼女こそまさしく運命の女だと確信する。お前ははじめて行った風俗で最初に出会った嬢に惚れちゃう非モテか。大佐が来るとギギはハサウェイのジャケットを落として「たいさあ~、こわかったあ~(ハート)」と駆け寄って抱きつく。2人を眺めながら、落ちたジャケットを拾うハサウェイ! ここはホントに名場面です。泣きます。マーでもその直後にギギちゃんに「コーヒー飲む?」とか言われてカップ渡され、こ、こ、これって同じカップでか、か、間接キッスじゃーあーりませんかとドキドキしてんだからハサウェイ君は面白すぎる。ギギが頭をもたれかけてくるとウットリ。もうねえ連邦の腐敗とか地球環境の危機とかよく知らんけど、ハサウェイお前の気持ちは全部判る。性欲をなんとか制御しようと、童貞は不審な行動をとりがちなんだ。童貞あるあるなのだ。


ハサウェイは戦場でアムロやシャアを間近で体感し、射撃も近接戦闘もできる、MSパイロットの才能もある、連邦の腐敗と戦う覚悟も決まってる、しかしクエスを喪ってからこっち、女のことが全然判らない。映画の話法もハサウェイとシンクロしてて、男たちの思考は判るように描いているが、ギギの内面には踏み込まないように作ってる。まあガンダムにおいて意志ある女は、MSに乗りますからね。


捕虜になってた仲間を奪還、クスィーガンダムの初陣を終えてマフティーの船に凱旋したハサウェイは、明らかにちょっといい気になっている。頼れるリーダーを演じて、調子に乗っている。しかしベリーショートの女性と会った途端、我々にはおなじみのオロオロと情けないハサウェイに戻る。思うにこの人こそはハサウェイのカッコ悪いところを知ってる女性、つまりハサウェイが童貞を捧げた相手なのだろうと推測する。彼女が渡すポカリを、ハサウェイは素直に貰う。なんだかムズムズする場面だ。君にはブライトとミライさんという立派なご両親がいるのに、アムロだのシャアだのに影響されて、人生歪んじゃったなあ。


性に翻弄される若人を描くこんなアニメーション映画が全年齢対象で公開されて大ヒットしてるんだから、まったく世の中捨てたもんじゃない。続編がとても楽しみです。

追記

  • MSの市街戦は評判通りよかったんだけど、ペーネロペーもクスィーもヒト型兵器の快感には程遠く、安彦絵で描かれたようなカッコいいアクションや殺陣はゼロ。空飛ぶ砲台だった。
  • 夜間の市街戦で建物の柱に身を隠すギギとハサウェイ、暗闇に火災の照り返しで浮かび上がるシルエット。ロジャー・ディーキンス撮影の「1917 命をかけた伝令」のもろパク。こういう引用は多くて確かに退屈しないが、いい映画だなあという感慨には寄与しない。
  • ハサウェイとタクシー運転手との会話がいい場面なんだけど、これって「妖星ゴラス」ですよね富野御大! 沢村いき雄!
  • 炎上したダバオでMSが消火剤のタンク背負って消火活動してるのがよかった。
  • 松竹マークの直後、キリキリキリ… という音が聞こえておいおいお前らマナー悪いなケータイの電源切っとけよと思ったら映画の音声だった。ミノフスキークラフトの前フリだったのかな。