PRIDE武士道其の六

テレビ観戦。高阪、もう年か。以下に書くことは、武士道での試合に直接関係することではない。
総合を観ていて残念な気持ちになってしまうのは、選手が本当にピークの強さでいられる時間が短いということと、露出の少なさである。選手と観客が同じ時間を共有し、共に傷つき、共に喜び、共に成長していったときに生まれる感情が、総合の世界では報われることがほとんどない。思えばオレが金ちゃんを初めて意識したのがキックパンツ姿で新日に上がっていた頃で、あのときはなんてブサイクな人だろうと思っていた。彼がリングスに移籍し、連戦連勝していたあの頃はワクワクしたよなあ。いい時代だったよ。懐かしいよ。しかしいくら長い時間を金ちゃんを見ることに費やしてきても、金ちゃんと共に時代を生きてきても、昨日今日出てきたマウリシオ・ショーグンとかいう小僧にボコボコにされてしまうのが総合の現実である。これ、ちょっとキツイんだよな。いや正直、けっこうキツイんだよ!
野球がサッカーよりすぐれているんじゃねえかと思う点は、ベテランの出番がたくさんあることだ(よく知らないけどそうなんだろ、たぶん)。10年15年と見てきて思い入れたっぷりの選手が、第一線でやってる姿を見られるというのは素晴らしいことだ。美しいことだ。サッカーの選手って、ほとんど20代まででしょう。それでも楽しめなくはないと思うが、たとえば20年見てきた選手にしか生じえない、「思い入れの質量」というもんだってあるんだ。
例えばプロレスファンが今の天龍源一郎に感じている磐石の信頼感というか、安定感のようなもの、これを総合の世界に期待するほうがおかしいのかもしれない。しかしねえ、天龍見るのっていまだに最高に楽しいんだよな。天龍は53歳のおっさんなんだけど、最高に楽しい。本当なんだよ、どんだけ天龍見てんだって話なんだけど。例えばオレが会場に行ったときに天龍がたまたま消化不良の凡戦したって別にいいんだよ、いまさらオレだってガタガタ言いやしないんだよ。オレは天龍のいい時も悪い時も見てきたんだから。オレの中には天龍を見てきた膨大な時間がすでにあるんだから。その記憶は今もオレの中で生きているんだから。もう試合なんか関係ないんだよ、天龍が負けたって「天龍、相変わらず元気そうだなあ」と思うんだよ。それでお客さんは深い満足を得られるんだよ。つまり天龍は「現役でいる時点ですでに勝ち」の世界にいるんだ。それはかつて馬場さんが長きにわたって生きていた、非常に美しい、美しい世界なんですよ。
総合には、そういう美しい世界はない。オレは・・・気づいてしまった・・・唐突に・・・気づいてしまった・・・感動などないっ! いや、そりゃ総合にも感動はありますよ。総合は進化した(或いは先祖返りした)プロレスで、PRIDEは新世紀の新日本プロレスなのかもしれませんよ。たぶんそうですよ。しかし、昭和のプロレスファンとしてはもう、どうしても感覚的についていけない部分も出てきてんだよ。今日放送された高阪の試合で、はいそうですかと言って納得できないんだよ、オレは。試合内容的にどうのこうのじゃなくて、オレのこの気持ちをどうしてくれるんだよと。どうにもやるせないんだよと。悲しくて悲しくて、とてもやりきれないんだよ。そういう思いをすることが、総合では多すぎるんだよ。もうこっちはギシギシ軋んでんだよ。この心が軋む音が聞こえるか、榊原さんよおおお。聞こえてんのかよ、天国の森下社長さんよおおお。
その昔、馬場さんは言ってたんだ。どこで言ってたかも覚えていないし、細かい内容もうろ覚えなのでオレの言葉で再現するが、以下のようなことである。

(馬場さんの声でお読みください)
みなさん真剣勝負とか八百長とかいろいろ言いますけどねえ、例えばジャンボとまだ弱い若手選手が試合をするでしょう。そんなもん、誰がどう考えたってジャンボが勝ちますよ。しかしねえ、それがたまたま弱い若手の地元の、田舎の体育館だったら、その若手の家族から同級生から、学校の先生から親戚まで、みんな見に来るんですよ。その若手を応援するために、チケット買って横断幕作って来てくれてるんですよ。そんな場合でもジャンボは、1秒でも早く若手に勝たなきゃいけないんですかね。それが真剣勝負なんですかね。
最後はジャンボがバックドロップで勝つにしろ、少しは若手に攻めさせてやろう、若手が頑張っている姿をお客さんに見せてやろう。その上で、全力を出して勝ってやろう。そう思うのが自然な人情じゃないんですかね。そのジャンボの人情を八百長と言われてもねえ、そんなことお構いなしに、1秒でも早く勝てばそれでいいと思うような人間を、お客さんはお金を払って観たいと思いますかねえ。ぼくは、そうは思いませんねえ。

オレだって昔はよかった式の愚痴は言いたくないんだけど、かつては本当に、本当に美しい時代が確かにあったんだ。間違いなくオレもその時代の中にいたんだけど、そのときは美しさに全然気がつかなかったんだ。そして今、美しい時代は終わろうとしている。残っているのは全日本プロレス、NOAH、ZERO1-MAXだけか。

オレは絶滅していくプロレスファンだ。テキサスの化石になるんだ。あとから来る連中、PRIDEに熱狂する平成のデルフィンたちよ。小池栄子たちよ。拾ってくれるな、黙って通り過ぎてくれ。