「君たちはどう生きるか」の胎内めぐり

宮崎駿の新作「君たちはどう生きるか」を観てきましたよ。いやあ凄いもん観ましたねえ。こんな凄いもんが、2023年のこの国で生まれるなんて本当にビックリですね。以下、読まんでもいいような感想ですが、内容に触れてます。皆さん一刻も早く観てくださいね。語り草になる映画です。

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ママから生まれたい、という欲望 (★4)


これ宮崎駿の『8 1/2』だよな、異界の上空からの俯瞰なんかそっくり。映画作家は歳とるとこういうの作るよな(むしろフェリーニ若すぎ)。宮崎駿の私小説だからあれにもこれにもモデルがあるようだ。わたくしとてオタクの端くれ、これがジブリであれが誰がモデルで、あの場面はあの映画のアレでといった与太話はファミレスでドリンクバー奢ってくれれば朝までできますが、この種の匂わせは劇中に無造作にたくさん転がっててあまりにも露骨すぎ、こりゃどうも迷彩であってあんまり本筋じゃねえなと感じた。


では本筋は何かといえば、ママ好き好きママ大好き、もう1回オレを生んでくれという82歳の魂の叫びだ。この映画は宮崎駿じみた少年が失われたママを求めてその胎内をめぐり、もう1回ママのお腹からこの世に生まれ落ちてくるという物語だ。異界すなわちママの胎内で出会うママ(気ィ狂いそうな話だ)はケガレなき完璧美少女で、少年を全肯定して甘やかしてくれる、ママなので。義母はママの妹でドエロい人妻。いきなりお腹を触らせて「女体の神秘」(1967年西ドイツの性科学教育映画)カマして少年をドキドキさせる一方でオヤジとチュー。実写ならキャストはラウラ・アントネッリ*1だな。産屋での決裂では急に今敏映画のキャラみたいな顔になる。七人の小人ならぬ七人のババアも宮崎駿のリビドーからは逃れられぬ。ババアのひとりは若く美しい姿で少年を助ける。


異界においては欲望が解放され、女性たちはいちばん美しく生命力にあふれる理想の姿で少年に接する。オレは女たちのいちばんおいしい時期をパックンチョしたいんだよおお、とりわけママ、オレのママはスーパー美少女ちゃんで最高なんだよおおもう1回、いや2回でも3回でもオレを生んでくれママー、ママー、ママから生まれたいんだよおおという、想像を絶する途方もないプレイ。いや、もはやプレイでさえない本物の欲望。ポニョの時も書いたけど、今回も精子表現ありましたね。夜空に浮かぶ、幾万の精子。


世の中にはいろんな映画があるけれど、こんな映画がマジでこの世にあるのかよと本当にビックリした。それだけでも凄い映画だし、世界一のアニメーション技術で表現されるエロスとタナトスの官能の凄まじさ、ソファーで眠ってるママがドロリ溶けちゃう場面なんか同業のアニメ監督は全員脱帽、最敬礼しちゃうのではないだろうか。まあアニメ監督たちがこれ観てどう思うかは我々の知ったことではないんだけど、特大の気まずさも含めてこれもう御大パンツ完全に脱いどるでしょう(宮さんパンツ脱がない問題というのがかつて提唱されたのです、庵野秀明によって…)。表現者って行き着くところまで行くと、ここまでさらけ出すのかよ。娯楽映画として面白かったとかつまらなかったとか、この映画はすでにそういうこっちゃないところに存在している。いや正直言って面白かったんだけど、すげえいきあたりばったりな話だもんなあ。でもタイトル前の異様に小さい戦車の行進や、頭身がまったく違う七人のババア登場のあたりで、ああこれまともな映画じゃねえなと判りますよね。インコ軍団が後ろ手に包丁とか手斧持ってるのなんか、声あげて笑っちゃった。まあジジイが世界がどうのこうの言うてたあたりはポカンとしちゃってあんまり覚えてないですが。

*1:「青い体験」を観ましょう